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第100話 謁見

謁見の間の上座に、一人の豪奢な鎧を身に着けた男が、細部に至るまで見事な彫刻が施された背もたれの高い椅子に腰を掛けて、肘掛けに肘をついて座っている。

イブリスが王の前に進み出て、仰々しく頭を垂れた。


「これはこれは王様、こちらは準備が整いました。そちらも整ったと伺いましたが、いかがですか?」


「うむ、イブリス。その態度は気に食わんが。こちらは整った。いつでも出撃できる。ところでイブリス、その者たちは誰だ?わざわざここまで連れてくるような者たち・・・である者もいるな。オム、今回の出陣に同行願えるとはありがたい。ヘルト、また力を貸してくれるということで良いな?これは力強い。さて、3名の、男のエルフと女のエルフ、そしてフーマンか?その者たちは誰だ。」


「陛下、僭越ながらこの私、ヘルトがご説明いたします。まず、男のエルフですが、名をエクサ・メルチャントと申します。」


王がエクサという名前を聞いて少し興味深そうに顎を撫で、顔を前に出した。


「エクサとな、はて、かつての戦場で嘆きの死神とうたわれた、あのエクサか?」


「左様です。」


王の顔が驚愕の顔になる。


「これはこれは、かの有名なエクサであったか。目にもとまらぬ速さで移動し、気が付いた時には死んでいる。顔を見た時はその者の最期。だが決して殺めることを良しとせず、倒れた兵に情けをかけ嗚咽を漏らしながら弔ったとされる話は、戦場に出た者たちから幾度となく聞かされた。これはまた心強い。よろしく頼む。」


ひとしきり驚いた後で王は背もたれに寄りかかり次の言葉を待った。


「ありがとうございます。続いて女のエルフですが、ラベリーと申します。彼女はエルヴスの現代表であるリザル・パトリアルチに仕え、鍛え上げられた腕はなかなかのものでございます。今回はこちらより同行を依頼いたしました。」


軽い嘘を交えてヘルトは王への言葉を紡ぐ。


「そうであったか。かの盟友リザル殿に仕えていると。バーリ夫人は息災かね?そうか、それは何より。して、最後の一番頼りなさそうな男は何者だ?使えるのか?」


明らかに王の態度が変わる。


「はっ、この者はコサックと申します。武術の基礎は私が叩き込んでおります。」


「そうか、しかしな、一般の民を連れていくわけにはいかんぞ。死者を増やすわけにはいかん。この者は今回の遠征から外してもらいたいのだが。」


コサックの話はもういい、といった表情であからさまに邪険に扱う。


「恐れながら申し上げます。私、ヘルト・イダルツ並びにオム・サピルスは、今回の討伐、このコサックが居なければ達成しえないものと存じます。」


ヘルトが王に反論した。

王はヘルトが世迷言をのたまっていると目を細めて見つめ、コサックを見ては鼻で笑う。


「この者が?何を言うか。」


「王様、本当に帰らせるのかい?なら僕も負け戦はしたくないから退散したいんだけど。」


「!!何を無礼な!!」


王が椅子から立ち上がり、ガツガツと足音を立ててイブリスに近づいた。


「イブリス!この王に対してそのような舐めた口調で話すならば、貴様の舌を切ってしゃべれなくしてもいいんだぞ!」


王がイブリスに対して、腰をかがめて鬼のような形相で凄む。

だがイブリスはいつになく真剣な表情をして、王の目をしっかりと見据え、全く動じないでいる。


「顔が近いよ王様。僕は本気で言っているよ。彼が居なければ必ず失敗する。いたずらにフィルシズを増やすだけだ。どういうことだか、見た方が早いかい?」


「よし、見せてみろ!」


イブリスがコサックを見た。


「コサック、悪いんだけどその防具外してくれないかい?あと神気は出るかい?」


コサックはイブリスの言うとおりに、何も言葉を発せずに防具を取った。

イブリスが防具を寄こせと言わんばかりに手をコサックの方に伸ばし、コサックはその手に防具を乗せた。


「王様、この防具はね。あのシビルさんが調整したものなんだ。」


「ほう、我々の装備を、フィルシズに効果のある神気とやらが使えるようになる、その装備を提供した者か。そのシビルとやらが作った装備で、各領の浄化をして回っているのが、そこのエクサ、オム、ヘルト、だったな。」


「ええ、そうですよ。この装備は一番の初期型。神気を纏っていないと発動しない装備で、誰も扱うことのできないものですが、彼なら使いこなせます。コサック、見せてよ。」


イブリスがにへらとコサックを見て笑うのに対し、その他ヘルトたちの顔は強張った。

今まで沈黙していたヘルトが口を開いた。


「イブリス、だめだ。ここで神気を使うべきではない。」


「なんで?また寝ちゃうかもしれないから?」


「そうじゃ!本人でもわからないことが多く、もちろん我々も解明していない未知の力じゃ。またというより、それこそもう起き上がることがなければ、そんな悲劇は無いじゃろう。」


「うーんそれはそうかも。温存しないとやっぱだめか。」


「いやいいよ、イブリス。消費しなきゃいいんだ。」


謁見の間で初めてしゃべるコサックに、驚愕、興味、悲哀、侮蔑、様々な視線が集まる。

コサックは目を瞑り、腕や体を自然体に力を抜いて、奥底にしまった神気を意識する。

目を瞑っているコサックの体の周りが白く、霧がかかるように包む。

コサックが目を開く。

右手を出して上に向け、意識を集中させると、帯びた神気が右手の方に集まってきた。

コサックに対する視線のうち、侮蔑がなくなるのを感じた。

オムが焦ったような顔で、真実の瞳でコサックに目を凝らす。


「こ、これは。」


王のそばにいた鑑定人もオムと同じようにコサックを見た。


「陛下、お、恐れながら申し上げます。彼のものが纏います霧のような白いモヤですが、間違いなく神気、と私の鑑定が訴えております。神気を帯びる装備は私も鑑定に参加していくつも見てまいりましたが、これほどの神気を纏える者は見たことがありません。そもそもフーマンだろうがエルフだろうが、神気を纏う者など前代未聞です。」


鑑定人の額から一筋の汗が流れて光る。


「コサック、お主、体は大丈夫なのか?」


「はい、オムさん。この状態なら、いくらか神気の消費はしているのでしょうけど、ただ纏っているだけなので。さっきイブリスに渡した防具のことも知っているとは思いますけど、外部から神気を当て続けることで、防具に込められた神気を発動させることができます。前になんの対策もせずに触った時は、わずかに体の周りに流れる神気に反応して、神気を吸い続けて発動していましたが、今ここに至るまで付けていられたのは神気を体の中に完全に押さえ込んで防具が反応しなくなったからです。神気の扱い、出す時は出して、しまう時は完全にしまう。これができるようになりました。あとはどのくらいの神気の量があるかですけど、また眠ってしまってはあれなので量は計っていません。」


コサックの言葉を聞いて、オム、ヘルト、エクサが驚きと寂しさ悲しさを混ぜたような表情を浮かべた。


「いつも言っているだろう。コサック、気にするな、と。だが、そうか、そこまでできるようになったのか。そうやって成長して行くんだな。」


ヘルトの目に涙が浮かぶ。

鑑定人が冷静を取り戻し、王に向き直った。


「陛下、改めて申し上げます。今我々が備蓄してる装備ですが、活動するのにも限界があるのはご存知であると存じます。かの強大なパンテラの攻撃は、神気が備わっていない我々にとって、防具で無理やり神気を纏っている状態で、パンテラの攻撃が神気の力を上回ると防具を突き抜けてしまいますが、この者は防具よりも高い濃度で全身を神気で巡らせていることがわかります。つまり、パンテラの攻撃が届く前に、パンテラの体が浄化されて行く、ということになります。パンテラにとってこの者の存在自体が脅威となり得ます。」


鑑定人が王に告げた。


「さあて、王様、どうする?コサックを討伐から外す?」


イブリスの明らかな挑発に歯を食いしばるが、すぐに毅然とした態度に戻り、コサックたちの方へ右手をかざした。


「同行を許すが、邪魔だけはするなよ。」


王が椅子に戻り座ると、きた時と同じように足を組んで肘をついた体勢になった。


「「はっ、お仰せのままに。」」


オムとヘルトが王に謙ると、すぐに立ち上がり謁見の間から出て行く。

王は何も言わずに後ろ姿を見つめていた。

謁見の間から出て扉が閉められた瞬間、コサックは緊張が解けたのか、足が笑い始めて歩けなくなった。

ラベリーが優しくコサックに肩を貸す。


「あー怖かったー。ちょっとこれから寄りたいところがあるんだけど一緒に来てよ。」


「またどこに連れて行くんじゃ。」


「殿下のと、こ、ろ。」


イブリスが自分の口調に合わせて指を左右に振った。

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