第98話 兆し
シャリスか教えてくれた方法でコサックは何度も練習を重ねた。
神気を感じ、体の奥底にある生命力を感じ、神気をその生命力と同じ場所に全てしまいこみ、生命力と神気がぐるぐると混ざる感覚。
意識しながらであればできるようになったが、無意識でもできるようにと、コサックは神気を常にしまった状態となるように生活を始めた。
「前より存在感がなくなったぞ。また眠ったりしないだろうな。」
マギローブが何やら気がついたようだが、笑って誤魔化し、マギローブも気の所為とコサックの体を貪る。
交代でやってくる美女たちとの行為の最中も、最初のうちは神気に気を取られ、絶頂を迎えず、気持ち良くなかったのかと拗ねられてしまうことが多々あり、取り繕うのに大変な思いをしていたが、継続しているうちに神気をずっとしまい続けることができるようになった。
改めて、コサックは誰もいない食堂にやってきた。
神気の防具を手に取り装着していく。
胸当て、脛当て、小手、そして剣、全て装着し終えても、何も起きなくなった。
試しに小手を見てみる。
神気を纏う小手
鍛造 イロンとタウルスの皮(作者不明)
付与 神気(シビル作の魔法陣による)
効果 触れたフィルシズが浄化される(部分)
備考 外部からの神気と共鳴すると白く光る
蓄えられた神気から消費され、なくなると外部から神気を吸収する
外部の神気もなくなるとただの小手になる
今はただの小手
成功した。
コサックは思わず大きな声を出して食堂で小躍りをしている。
そこにシビルがやってきた。
「楽しそうね。何をして、い、る、の?」
食堂に入ってくるなりコサックのつけているものを見て固まるシビル。
「あのー、シビルさん?」
「あ、何やってるのコサック!早く取って!じゃなきゃまた神気が、あれ?ちょっと待って。」
シビルの目が光る。
「こ、これって。何をしたの?!」
「神気を完全に体の中に閉じ込めて、この防具が発動しないようにすることに、成功したんだ。」
シビルが目を潤ませてコサックに飛びついてきた。
「すごいじゃない!神気の扱いを覚えたのね!これでもう、倒れてまた眠ってしまうこともなくなったのね?嬉しい。いつ、こんなことができるようになったの?練習したの?ん、練習?まさか、私といたしている時ちょっと意識が私の方に向いたなかったのって、これ?」
シビルの表情が喜びに満ち溢れたものから訝しがるものに変わっていく。
「ちゃんと私を見てくれていなかったの?これは、罰が必要ね・・・。」
今度は悪巧みをするような表情になった。
「決めた。今度の私の番のとき、もう他のことが何も考えられなくなるくらい、回数をこなしましょ。私もいっぱいで満たされるし、いいわね、コサック。」
「はい!」
凄むシビルに大きな声で返事をしたコサックだったが、やはり神気の扱いができるようになったことを、その喜びが顔にどうしても出てしまっている。
シビルは諦めたような顔をして、みんなにも伝えておくから、と言い残して食堂から去って行った。
(え?みんな?)
通い妻たちはますます激しさを増し、開放される頃にはコサックは頬はこけ、朝しばらく起き上がれない日が続いた。
日課となっている稽古には間に合うようになんとか体を奮い立たせ、居残りの体力づくりでは屋敷を2周できるくらいにまで成長している。
そろそろ秋の足音が聞こえ始める頃、シビルがよくえずくようになり、調べたところ妊娠が判明した。
出産準備には辺境伯の屋敷では機能不足ということがあり、また母体が安定期になるまでコサックから引き離す必要もあり、シビルはリザルの家に出産まで居候することとなった。
子を欲する2名の獣人がさらに激化したのはいうまでもなく、ついでエレンとマギローブも懐胎した。
エレンとマギローブは、獣人になったこと、その存在が世界から否定されていないか、少なからず不安を抱いていたが、妊娠したということでこの世界の種族の一つとして、個体の一つとして、認められたような気がしてようやく地に足をつけた感覚になった、とコサックは聞かされた。
妊娠期間も不明の2名だが、手を借りなくとも大丈夫と、辺境伯の屋敷にこもり、シビル同様安定期、というものがあるかは不明だが、大人しくしていた。
ラベリーはコサックとの2人きりの時間を楽しみたい、せっかく独り占めできる今を大事にしたい、と考えており、妊娠することについては、したらしたでいいと深くは考えておらず、たまたまだろうがまだ妊娠していない。
そんなおり、フマニテでフィルシズの浄化を行うということが、この辺境伯の屋敷にも届いた。
コサックは参加の意思を見せたが、留守中何かあってはまずいと、コサックがウィリスにエレンとマギローブの身の回りの世話を頼みにいく。
ウィリスは即了承をした。
今ティーヴ内での戦乱が水面下でその激しさを増している、情報戦だが激化しているらしく、魔法に長けた2名がいるのは心強いといっておりあまり無理をさせないよう、あの使用人に申し出ておいた。
フマト魔法研究所に、エクサ、オム、ヘルト、コサック、そしてラベリーが転移石で向かう。
群れとなったソフィアたちはフマニテやエルヴス各所の警戒に回っているためひとところに止まっておらず、今回屋敷にいなかったため同行しなかった。
コサックたちの転移石での突然の来訪に、居合わせた研究員が腰を抜かす。
この研究所に研究員が戻っている。
フマニテ謀反のあと、研究所が見直され再建と研究員の増員をし、生活に役立ち、かつ復興のための魔法研究を国策として位置付けた。
オムやシビルは指名手配から外され、研究所の名誉研究員として招かれたが、オムはひと月に数度、顔を見せていたが、シビルは全く研究所に出入りすることはなかった。
「私はコサックを診るのが今の仕事で、この命をかけています。忙しいので辞退します。」
と言って取り付く島もなかった。
この10年でフマニテ内の街は見事に復興を遂げ、上下水の完全完備から衛生面も見直され、別の領で住みやすそうな街を聞いて回ると必ずフマニテの街が上がるほど、生活水準が向上した。
戦争の放棄を宣言しているエルヴスにも技術は伝えられ、安全、安心の面で競うようになっていった。
「短い生涯の中で何かを変えよう向上させようとする意思はどの種族でもフーマンが一番。発明力というのですかね、フーマンはそこがすごいです。」
エルヴスの研究員はそうフマニテを評している。
そんな世界から一目置かれ、自尊心を取り戻し、気高い存在となった研究員が目の前で尻もちをついている。
「ほれ、立つんじゃ。情けない。所長代理の顔を忘れたかの。」
オムが研究員にはっぱをかけ立ち上がらせると、所長の元に案内するように指示した。
研究所の改装は行われていないが、やはり使われるようになると綺麗に見える。
エクサは前回の居抜きの状態から研究所内に入っておらず、その変わりように驚いていた。
「失礼します!」
研究員が扉の前で声を張り上げると、中から入るよう促す声がした。
扉を開けると、ぶかぶかの制服を着た少年が座っていた。
「やあ、オム先生、お久しぶりです。コサックも、久しぶりだね。ああ、この姿では初めましてだね。前世はしがない辺境伯の屋敷の研究員レボルト、今はここの所長をやってる天才フーマン魔法師こと、イブリスだ。よろしくね。」




