第10話 横断
不浄の地の侵蝕速度が早い。
他の獣たちも、不浄の地から逃れるように散っていった。
要塞都市から少し走ると森を抜けた。
森との境界に背の高い草がまばらに生えている。
雌たちが進むにつれて徐々に草の背が低くなりまばらになっていく。
今より安全な大陸へと移動するため、雌たちはこの大陸の端を目指していた。
大きくひび割れた荒野を小走りに走っていた魔狼たちの耳に、走り去った雄の遠吠えが小さく聞こえた。
籠を咥えた雌に代わって、雄にこちらの位置を教えるため、子供たちが遠吠えを返す。
遠吠えの聞こえた方向を見ると、豆粒のような狼の姿が3つ、小高い丘の上に確認できた。
雌たちは数日歩き続け、夏が終わろうとする頃、大陸の端にたどり着いた。
浜辺の奥に歪な砂の地形が広がる。
かつて海底だった場所は乾燥しひび割れていた。
『水は?』
コサックが雌に聞いた。
『だいぶ前になくなった。雨の数が減った。流れる水が少なくなって、砂だらけになっていった。』
コサックは言葉を失った。
どうすればこの世界が再生できるのか、寿命尽きるまでにやり遂げることができるのか、あと何年生きられるのか、さまざまな想いが交錯した。
浜辺で一息入れることとなった。
梟は籠の端にとまり、3匹団子になって休んでいると、雄が森から駆けてきた。
雄が合流した。
後ろに群れの生き残りである2匹の雌がついて来ていた。
目を光らせて合流した雌たちを見る。
(やはりダメだ。真実の瞳で浮かび上がる文字が全くわからない。)
文字 文字
と並んで真実の瞳から情報が得られるようだった。
コサック自身を真実の瞳で見ても、結果は同じだった。
『そういえば、みんな、名前、ないの?』
雌たちに聞いてみたが全員、無い、と答えた。
『名前を持つ獣は少ない。名前がつけられているということは、戦争の道具となったということがほとんど。名前があることを屈辱に感じるものが多い。』
梟の解説にコサックは納得して頷いた。
大きな魔狼が呼ばれていたのは、一体なんだろう、とコサックは考えていた。
『人族などが我々に出会うと、アルトゥムカニス、と必ず言う。我々のことを総称してそう呼んでいるのだろう。』
雄がコサックの心を読むかのように言った。
『この雌たちと合流した時、群れのものたちは無惨な姿で転がっていた。死体の損壊具合から、あの人族たちにやられたものがほとんどだった。魔狼相手に奇襲を成功させるとは厄介な奴らだ。死体は、恐らくはもう不浄の地に飲まれているだろう。』
『あの大きな魔狼と対峙すると厄介だな。』
雄と梟は顔をしかめる。
『さあ、休憩は終わり。行くよ。まだ森が残っているところに。』
母親の雌が号令を出す。
生き残りの雌たちも従い歩き始めた。
白い砂浜が続いている。
(海の底を歩くなんて。)
コサックは森を出てからずっと、籠から身を乗り出し、下を見ていた。




