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第1話 転生

(ここは、なんだ?確か死んだはずでは?)


1人の白髪の男が何もない空間に佇んでいる。ゆっくりと確認するように手を前に出すが、何も抵抗も感じず空を切る。あまりにも何もなく、視覚が正常に働いていないような錯覚に陥っていた。 男が一通り体を動かし周囲を確認し尽くした後、突然眼前に水が荒れ降るように光が漏れ出した。弱々しくか細い光が何かを照らしている。


「姿を見せるまで時間がかかって申し訳ない。ここにあなたを呼んだのは私だ。ある世界の創造の神をしている。」


神と自らを称した見窄らしい格好の老人が男に話しかけた。


「私の創造した世界において、私に対する信仰が減少の一途をたどり、再び信仰を集めることがかなわず姿を保てなくなってきてしまった。私の世界は今、種族間で戦争を繰り返している。そのためか、私の力は減退し、世界の荒廃が加速している。あなたをここに呼んだのは他でもない、世界の荒廃を止めてもらうためだ。どうか、私に力を貸して欲しい。」


俯き気味で老人の顔がよくわからないが、どこか寂しげで諦めを感じる老人の言葉を聞き、男はしばらく思考を巡らせた後で老人に問いかけた。


「少し質問をしたい。まず選ばれた理由を知りたいのだが。」


老人が少し顔を上げて答える。


「これという理由はない。タイミングが合えば誰でも良かった。今は懸命に生き抜いた者を引き抜くことができた、と満足している。」


「まあ、順風満帆とまではいかないが、生きるために懸命に走り続けた人生だったかな。天涯孤独の身ではあったが。次に信仰とほかの神についてだが。」


「神は私一人しかおらん。いくつもあるとややこしくなると思ってな。今思えばもう数人いればこのような事態は防げたのかもしれない・・・。信仰は、今や私のことを思い祈ってくれるような者はこの世界に数えるほどしかいない。一人でも祈ってくれている人がいれば私の存在は保てるが、消滅するまでそう遠い未来の話ではないだろう。あなたがこの世界に降り立ち、私のことを思い祈ってほしい。一人でも信仰があれば良い。」


「わかった。それでは種族の戦争については。」


「現在3勢力となっている。あなたのような人族が率いる軍勢、人族より魔法に長け寿命が長く肌が浅黒い魔族という種族が率いる軍勢、人族よりも耳が長く魔族よりも寿命が長いエルフ族と呼ばれる種族と獣と人族が融合したような獣人とよばれる種族からなる軍勢。もう長い間戦っているのだが、争いのきっかけは、領地の争いだったか、食糧の確保だったか、怨恨だったか、当事者たちは何を理由に争っているかなど明確に把握している者はいないだろう。現状では魔族の軍勢が優位にある、くらいだろうか。どの勢力にも武や魔法にたけた者がおり、攻めあぐねている。あなたには、戦禍で不毛の土地となった場所の再生と浄化をお願いしたい。加速する荒廃の原因も探ってほしい。何故か魂が世界に縛り付けられており、輪廻転生がうまくいっていない。それゆえどの種族や生物も新たな生命が生まれにくくなっている。」


「魔法か・・・。その土地に赴くにあたり何かあんた神から恩恵は受けられないか。」


「不本意だが、良い恩恵、加護は与えられない。ただ世界を任せるのだから、誰よりも丈夫で健康で適応力のある体を授けるくらいならできる。とはいえ人族、あまり常軌を逸した体になるようなことはない。それと、真実の目という魔法を授ける。魔力の消費も少なく済む。あなたの魔法の素質からすると、多くの魔法を覚えられても使用することは難しいようだ。」


弱気に話す老人は続けた。


「また降り立つ時はこれまでの記憶を持った0歳の赤ん坊として転生することとなる。成長した状態というのは一度0歳から魔力を使って成長させるほか方法がなく、成長に割けるほどの力はない。また記憶を消し去っては意味がない。降り立つ場所も大まかな範囲の中ではあるが戦場から離れた場所だ。特定の場所に寸分の狂いなく、はできない。身の安全は確保できるようにしたいがな・・・。」


しばらく男は考えを巡らせる。 男の様子を伺っていた老人が、思い出したかのように説明を始める。


「真実の目だが、いわゆる鑑定眼のように考えて欲しい。草木に使用すれば名前や用法などがわかる。ただ説明もこちらの世界での説明になるので、見たものによっては理解ができないかもしれない。」


男が疑問を老人に投げかける。


「そういえば、今会話が成立しているのはなぜだ?」


「ここに引き抜いてくるときに私と対話ができるようにした。私が作った世界だ。私の言葉が世界共通言語でどの種族も一応の会話はできる。ただ独自の言葉の文化が進んでいる地域もある。たとえば暗号として使っていた言語がそのまま標準語となってしまった地域がある。」


納得したように男はうなずいた。


「対話についてはあまり難しく考えてはいなかった。赤ん坊での転生であれば、すぐの対話は困難だろう。しかし、使える魔法はその真実の目だけになるのか?」


「そうだ。珍しい魔法ではないので注目の的や略奪の対象とはならないだろう。」


長い沈黙のあと、男がつぶやく。


「俺が死ぬまでかタイムリミットか。」


「健康な体にできるとはいえ人族だ。この世界の種族では人族が一番脆い。寿命は前の世界と大差ない。」


男は考えをまとめているようだった。老人は少しの間それを見守り、再度男に問う。


「どうだ、受けてくれるか?」


男はすぐに答えた。


「ぜひ受けよう。いろいろ聞いたが最初から答えは決まっていた。骨が折れそうな事柄ばかりだが、前の世界を生き抜いてきた私から言わせればこれくらいの苦労は大差ない。」


老人は男の回答を聞き、破顔する。


「ところであんた、性別はどっちだろうか。像か何か作って毎日祈りをと考えているのだが。」


「私は男でも女でもない。私を見た者が女といえば女だろうし、男といえば男となる。」


「そうか。なら俺の最初の印象では男だった。腕に自身はないがあんたの姿を真似て像を作り毎日祈りを捧げよう。ところで名前は何て言うんだ?」


「世界の人々は私を天地創造の神クレイブと呼んでいる。あなたはこの世界での名前はどうするのだ?」


「前の世界での名前をもじって・・・コサックなんて名は普通か?」


「ふむ。コサックなら有り触れた名だ。問題ないだろう。では私の世界にあなたを送」


ちょっと待った、とコサックはクレイブの言葉を遮って続けた。


「俺の記憶のことだが、1歳になるまで封印はできるか?」


クレイブが何の意味があるのかわからないという顔をしている。


「なら頼む。転生してすぐ余計な先入観や情報はあまりない方が良いと思ってな。赤ん坊は赤ん坊らしくしていた方が良い。自我が目覚めるころに思い出した方が都合が良いかもしれない。」


うーむ、とクレイブはコサックから視線を外し思案したが、すぐに納得したよう顔をコサックに向けた。


「わかった。封印を施そう。おそらく私の守りもそのくらいまでしか保たないだろう。こちらの世界と前の世界とで景色などはあまり変わらない。四季もある。太陽暦だったか、こちらの世界にも同じような周期だ。ただ1日30時間でひと月30日だ。先に四季と言った通り、春、夏、秋、冬、と各季節のことを呼び、3月に1度春夏秋冬の順に変わる。1年は12月だ。私がそう決めた。」


少し得意げにクレイブが話した。


「急かすようで悪いが、準備は良いかな?」


改めて意思を問うクレイブに対して、ああ、とコサックは力強く頷く。


「それでは、また、どこかで。天地創造の神クレイブ。」


「祈りが通じ私の力が大きくなれば、また会えるだろう。コサック、世界を、よろしく頼む。」


コサックは目を瞑り、クレイブはコサックに両掌を向ける。クレイブは呟くように詠唱し、差し出した掌の前に魔法陣が展開された。少し遅れてコサックの足元に魔法陣が展開され淡い光が明滅し、次第に強い閃光を放つ。明るさが落ち着いてクレイブが目を開けると、コサックの姿は目の前から消えていた。クレイブはすぐさまコサックを確認すべく魔法陣を展開してコサックの転生した地を映し見る。赤ん坊の姿を確認し、無事到達したことを喜んだのも束の間。


「ああ・・・なんという・・・。あれは、森の頂点の・・・。」


クレイブは激しく動揺していた。また新たに転生者を連れてくる力はもう残っていない。


赤ん坊の泣き声がこだまする森の中で、赤ん坊を中心に円を描くように、殺気立った魔狼の群れが、銀色の毛並みを靡かせながらじわじわと中心に近づいていた。

クレイブ:ゆりかごから墓場まで、の英語From the cradle to the graveのクレードルの「クレ」とグレイブの「イブ」から「クレイブ」と付けました。

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