連れ去られ、嫁がされ、下賜され、私の意思は ……?
※敬う気が無いので心の中では敬称を付けず、王太子呼びをしています。
私は王位に興味はありませんし、穏やかに暮らしたいだけなのです。
それなのに何故私は、縛られ、転がされているのでしょうか……。
波風立てぬよう、ひっそりと過ごしておりましたのに。
それなのに私を政争に利用しようと持て囃し、祭り上げよう等と余計な事ばかり仕出かす輩が後を絶たない為に兄弟に妬まれ敵視され、あまつさえ兄が他国の者に私の誘拐の手引きをしたと……。私も何処ぞの派閥に属していおけば良かったのでしょうか。上手く抑えておりましたのに。
残念なことに私に武力は皆無でございます。
護身用のナイフは持っておりましたが兄の余計な助言により呆気なく取り上げられてしまいました。
私、只今人生最大の危機ですーー。
……
さて、連れてこられましたのは隣国、簡単に説明すると長年敵対関係にある国ですね、はい。ふふふ。思わず笑みが……。私はどうなるのでしょう……。
そしてここはどうやら王族用の秘密のお部屋のようですね……。
まぁ、私を堂々とお城のお部屋においておける訳もありませんしね。当然とも言えますが。
ガタン!ガンッ!クソっ!!
あらあら、荒れておりますね……どうなさったのでしょう?
目論見通りに私を攫えたではありませんか。…………不覚をとりました……。
結局は、兄上に他国と通づる様な真似は難しいだろう、などと甘く見ていた私の落ち度ですわね……。
「おい! お前、王国の秘蔵っ子じゃ無かったのか!!」
はて……?
「クソっ! 価値があるとあいつが言うからわざわざ攫ってきたのに!! あああ〜! 何故だ! クソっクソっ!」
どういうことでしょうか……?
「おい! 見ろ! お前の大好きなパパからだぞ!」
パ、パパ……?
えぇと、別に父のことはそんなに好きという訳ではありませんが……
むしろ冷酷過ぎて苦手なくらいです。
ですがその手紙は気になりますね……。
どれどれ……。
……言葉を失いました。はい。それはもう、愕然です。ですが、納得出来ます。あの父ですからね。とても合理的です。
私は今目の前で暴れている、この国の、私からしたら敵国の王太子、その側室となるそうです。
この方が王太子で大丈夫なのか……というのは一先ず置いておき、父は、私は嫁いだと云う体を取り、王太子の独断 無謀な行動により引き起こしたこの騒動を無かったことにしてやる、その代わり我が国に余計な手出しはするなと。
私は攫われたのではなく側室として迎えられたことになるそうです。
一応、和平、といった形なのでしょうか? 婚姻はその代表的なものですし……。ですが、それでは王国の立場が低くなりますが……。
まぁあの父のことですからね、その分主要な港でも分取るつもりでいるのでしょう。
元々敵国同士とはいえ国力は拮抗しつつあった為、お互い優位に立とうと機会を窺っていた所にこの騒動ですからねぇ……。
これ幸いとやや強引に高値で恩と貸しを売りつけ押しつけ、売って売って売りまくりこれまた強引に必要以上に無理矢理受け取らせたのでしょう……。
それにしても正妻ではなく側室、ですか。王太子は確かまだ婚約者もいなかったはずですね……。
何故大国の王太子殿下であらせられるのにも関わらず婚約者がおられないのかと疑問に思っておりましたが……。御本人の資質の問題だった様ですね。
良識ある親でしたら例え最高身分の相手であってもこの方に娘は嫁がせたくないでしょうし。かといって傀儡にしようと近付く者を婚約者などという極身近に置くなど、恐ろしくて到底出来ませんものね……。周りの苦労が伺えますねぇ。
まぁそれは置いておいて、今回の件、全てがグダグダな気がしますが良いのでしょうか?
まぁ、私の知ったことでは無いですね。
この王太子の側室ですか、大変そうですねぇ。
等と考えていると突然王太子が私に振り返り……
「お前、もう要らなくなったわ」
ですよね、そう仰ると思ってました。
「でもなぁ……、どうするか、うーん、そうだ! おい! ウィル!」
「如何なさいましたか、殿下。」
「ウィル、こいつを下賜しよう。あとは好きにしてくれ。あ、一応死なないようにな!」
「……承りました。ありがたき幸せ。」
「よし、じゃああとは任せたぞ、ウィル!」
「はっ!」
えっと? ……この王太子は頭が弱いのでしょうか?
えぇと、私を側室とすることで騒動を揉み消し……ではなく、上手くまとめたのではなかったのでは……。
鬱憤のままに、そのまま下賜とは………。
驚きのあまり開いた口が塞がりません。
ですが、こうなったらどうとでもなれ! ですわね。
ふふふ。不味いですね、私にも王太子の思考が伝染してしまったようですね。いけないいけない。
さて……これから私はどうなるのでしょうか……?前途多難な予感です……。