第5話 【“カナリア”が鳴く頃に】
シドにうながされ、リオ・アキラ・カイト・ルトは急いで旅支度を済ませ 早足でギルドを出る。
『今回の依頼は変異種の討伐に加え、各地の異変に“フロイト”が介入しているか確かめて欲しいそうだ。』
『シドさん、これからどこに向かうんですか?』
『どこって俺達に依頼をしてくれた方達の所だ。そこで協力者と落ち合う予定だ。』
『今回の依頼は厄介な部類に入るからこればかりは協力者が必要なのさ。』
カルバの入り口でリオ達一行を待っていたのは長身の男と男より一回り小さな女性だった。
『お待ちしておりました、冒険者一行様。遠い所からわざわざお越しいただきありがとうございます。』
『いえ、本来ならもう少し早めに来れるはずでしたが状況が状況でして。』
『いえいえ、こちらこそありがとうございます。』
長身の男は国直属の騎士なのか国章の入った腕章をつけており、後ろしばりの濃紺の髪と深紅の瞳が印象的である。
長身の男の横にいた清楚な黒髪の女性がリオ達に労いの言葉をかける。
『よう、久し振りだな。まさかお前が情報屋として活動していたとはな。』
濃紺の男がシドに話しかける。
『それはこっちの台詞だ、クズ兄貴。なんであんたがここの領主やってんだよ?』
シドは低い声を出しつつ濃紺の男に詰め寄る。
『俺は仕方なくやっているのさ。あのクズ家長が勝手に俺を領主に決めやがったんでね。 文句あるならアイツに直接言えばいい。』
どうやら シドと濃紺の男は知り合いらしい。
『あぁ、今度会った時 鉄拳制裁するさ。』
『名乗りが遅れました、私はライラ・サウス。カルバの副地区長を務めています、よろしくお願いします。』
慌てて自己紹介した黒髪の女性はリオ達に深くお辞儀をした。
『俺はアリキーノ・クンフー。クンフー家家長に代わり、ロドセトラ領の領主をしている者だ。このような事態にも関わらず依頼を受けてくれた事に感謝する。』
濃紺の男は表情1つ変えず淡々と話す。
「レフィーレ所属のリオ・ハルバートです。お二人共よろしくお願いします。こちらは私の弟のアキラとカイトです。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いしますー!」
『レフィーレ所属のヴァルトラ・カルアだ。俺はこの子達の後見人だ。』
『俺はノア・シェルクド、フリーランスの情報屋だ。今回は訳あってレフィーレに協力している。』
『まずは現在のカルバの状況を話そう。 ここロドセトラ領周辺のアロ領・カトマ領・ナロ領が壊滅に近い状態まで被害が出ている。 実はフロイトの侵攻速度が今まで以上に早まっていて今日中にカルバに侵攻してくるかもしれない。』
『今日中だと、随分と相手は慌てている様だな。もしかしたら、ライロールの件が拍車をかけている可能性があるな。』
「あの…、ライロールの件って一体なんですか?」
『ここから南西に30キロ離れた所にあるユーフェルス領が所有する小さな諸島群があるんだ。 その名がライロール諸島群、別名“カナリア監獄”。』
「“カナリア監獄”…?」
『マキリ王国内で逮捕された悪名高い奴等よりも更に悪名高い奴等しか投獄されない国内外で有名な監獄施設だ。』
「でも、俺達 “カナリア監獄”は聞いた事ないです。」
『俺は聞いた事あるぞ。 汚職や悪事に手を染めまくった役人やら重大事件の犯人とかが投獄されているって話を聞いたな。』
『実はここだけの話なんだが、最近その監獄に“ラス”と“グリード”が投獄されたらしい。俺の憶測だがそいつらを助けようと侵攻速度を早めているのかも知れないな。』
『まぁ、“ラス”と“グリード”はフロイトの内で悪名高い部類に入る奴等だから投獄されて当然だからな。』
「それだけ凶暴って事ですか?」
『いや、彼奴ら以外だと“ジニティー”も該当するな。簡単に言ってしまうと凶暴ではなく自身の“欲望”を満たそうとして悪事を働いているのさ。』
「単なる自己満足をする為だけにそんな事しているなんて許せません。」
『リオちゃんの言う事は筋が通っている。けど、彼等はそれに苦しんでいる可能性がある。』
「シドさん、それは一体どういう事なんですか?」
『彼等は各自所有する“武器”から少しずつ特殊な魔力を注ぎ込まれているんだ。』
「でも、呪いが消える可能性ありますよね。」
『いやぁ、それは持ち主の生命を吸い尽くすか武器を破壊しない限り永続するから関係ないね。』
「そんな…。」
「そんな特殊な武器があるんですか?」
『あぁ 特殊な武器は実在するさ。その典型的な例が“悪罪武器”と“ソロモン武器”だね。』
「その“悪罪武器”と“ソロモン武器”って一体なんですか?」
『“悪罪武器”は大罪に由来する力を封入した武器で“ソロモン武器”は“悪罪武器”を含む“ソロモン72柱”に由来する悪魔の力を封入した特定封印指定を受けている武器を指す言葉だ。』
「そんな武器がなんであるんですか…。そんな物 早く破壊してしまえばいいはずなのに。」
『リオちゃんの言う通り。だけど実際問題、ソロモン武器は全体の3分の1しか破壊出来ていないんだ。』
「3分の1ですか!?」
『ソロモン武器の大半が所有者不明だったりダンジョンの宝箱の中や報酬、武器屋に名前を伏せた状態で売られているんだ。』
『まぁ、“悪罪武器”は何度か破壊出来ているけどソロモン武器の作用によって水泡に帰しているのが実情さ。』
「ソロモン武器の作用は全体の何割以下で作用しなくなるんですか?」
『いい質問だね、リオちゃん。 ソロモン武器は実在する数が全体の4割以下になれば作用が消える。 まぁ作用が消えるまでソロモン武器や“悪罪武器”が何度も再生出来るのが厄介だ。』
「そこまで下げられるか問題ですね。」
『ソロモン武器の2割がマキリにあるって話があるからソロモン武器の破壊を視野に入れながら任務を遂行しないとな。』
『とにかく今はフロイトの奴等をここから撤退させる様に仕向けないと話にならないな。』
『そうですね。 アリキーノさん、どうやって対処いたしますか?』
『まぁ、そう慌てるな。 俺の予測が当たればもう少しで結果が出るはずだ。 これは一か八かのかけだけどな。』
「!?」
『多分、小物用と大物用の仕掛けを作って予測した場所に置いただけだろう?』
『いや、予測が外れた時用の仕掛けも置いてある。』
『容赦ないですね、この人!』
『いや、当たり前だろう。 近隣の領地があんな状態にされたんだ。 俺達がここで食い止めなくて誰があいつらを止めるんだよ。』
「それはそうですけど…。」
『戦いは状況によって戦い方を工夫したりある程度予測を立てて策を練らないと命取りになりかねない。戦いってそういうのが勝敗に直結するんだ。 よく覚えておけ。』
アリキーノの言葉にシドとルトは無言でうなずき、
リオ達は途端に口が重くなり 辺りに気まずい空気が流れたのは言うまでもない。