六話
引き続き十三歳の夏です。
我が家が子爵位を賜る王国では、成人は十五と定められており、俺が当主として爵位と領地を継承するのもこの年齢に成る。それまでは暫定処置の当主代行として、母上が内政を切り盛りしているのだ。
で、この夏から俺は、王都にある王立学院に入学するらしい。という事で、レベリングは卒業して帰郷するまで一旦停止となった。うん、停止なんですね、戻ったらまだ続けるんですか、そうですか……。
初代王からの慣例で、貴族の子息子女は皆、十三から十五までの二年間を学園に所属し、内部で社交を学び、実践し、将来に役立つであろう友誼やら伝手やらを構築するのが目的とか。
夏の入学になるのは、王国領土がそれなりに広大で、東西はともかく南北の気候の差が激しい為だ。北の方じゃ、冬から春に掛けては雪と氷で閉ざされてるらしいからな。とてもじゃないが遠方への旅なぞ出れんのだろう。如何にレベルやステータスがあるとしても、個人差があるからね。
しかしこれが自分の身に成ると、実にめんどくさいと思わずに居られない。
前世コミュ症ぎみだった俺に如何しろと。引き篭もりには至らなかったが、休日は大体自宅でゲームか漫画か、ごろ寝生活送ってたのは伊達じゃないんだぞ?
あとは自炊と掃除洗濯くらいしかやってなかったからな。
だが家を継ぐ身として考えれば、俺に拒否権は無いのだ。
学園在学中に成人した学生連中を、纏めて王城で陛下から継承の許可を受けて今後も忠誠を誓う、という式典がセットになっているからな。行かぬ訳にも往くまいよ。はぁ、めんどくせぇ……。
そうして屋敷を発つ日となり、護衛の騎士達と馬車を待たせながら母上の立派なお胸に抱き締められ、乳母メイドのおっとり美人さんに健勝を祈られて旅路の空についたよ。
「所でお前たち、今更馬に乗るのか?」
「はて? 何をおっしゃるのですか、当たり前ではないですか坊ちゃま。」
護衛の騎士達は、俺を毎回パワレベに連れて行ってくれるいつもの面々なのだが、彼らが騎乗してる姿に、凄く、凄く違和感が湧いてくるんだよ。
「いやだって、馬の全速力よりも、お前ら自分の足で走った方が早いだろ?」
「はっはっはっ、確かにそうですな。ですが坊ちゃま、貴族、その子爵家嫡男様の護衛と成れば、外に見せる『見栄』というのも必要でありますれば。」
「あぁ、そう云うものか。」
納得はするが、レベリングの時は俺が乗る馬車の周囲を軍隊行軍よろしく、金属鎧フル装備で談笑しながら平然と走ってるよな?
領内だからこそ、普通は領民に対して見栄を張るんじゃないのか、そう云うのって。
貴族社会って、表では仲好くしていても、彼方此方に間者を潜ませて相手の醜聞を漁り捲って、何かにつけ優位に立とうと付け入るのが普通だって教わったのだが。
「ぬはははっ、坊ちゃま、我らが領地内に入ってきた間者が、どうなって居るかご存知ですかな?」
「? いや、過分にして知らないが……。」
「毎回捕らえた者は、訓練場に磔にして練習がてら剣のサビにしておりますぞ。」
「………。」
「お陰で最近は獲物が少なくなりましてなぁ、退屈な鍛練となっております。」
「そ、そうか……うん。」
ナチュラルに殺人行為ぶっちゃけないでくれますかね、それも朗らかにっ!? どん引きするわっ、殺伐しすぎだろファンタジー世界!
今迄知らなかったのは、家臣たちが意図的に情報遮断してたんだろうなぁ、これは……。
しかし捕虜に人権なぞ無いってか、そら前世みたいな世界的条約とかありませんものね。
俺の中身は前世平成の現代日本、いや、死ぬ直前に令和に成ってたけど、道徳と法制のしっかりした文明人だったのだ。
だから、こう云う部分がまだ全然馴染めて無いんだよ……。
魔物には流石に慣れたけどな、あんだけ狩りまくってれば、そらな。
まあ間者、所謂スパイだから、捕まえても拷問して情報吐かせたらあとは用無しになるのは判るけども。
『いや~、そいつうちが放った間者なんで。よければ身柄を返して貰えませんかね~?』
なんて引き取りに来る雇い主なんて居るわけ無いしな、辿られない様に何人も人を挟んで対策もしてるだろうしなー……。うん、せめて成仏してくれるように、祈っておこう。
凡才貴族に出来るのは、それがせいぜいというものさ。