四十六話
「中級治癒」
「お?」
初級治癒魔法で緩やかに打撲痕を引かせていたら、何処からか中級治癒魔法が飛んできたよ。
訝しげに周囲を見回そうとして、背後から近づいてくる三人の人影に気づき、慌てて立ち上がる。
「此度も随分とやられたな、ライハウント殿。」
「今ので大体治せたと思うが、まだ痛む所はあるかい?」
「しかし、子爵家嫡男でありながら、よく姫様の乱稽古に耐え続けられるものだ。」
「あなた方は……北閥の三勇伯のアイスグレイ様、マグマレン様、アプルショット様……。」
彼らは先ほどまで俺を痛めつけ……鍛錬に付き合ってくださっていた、デルダナール辺境伯家を中心とする北閥の中でも、特に重鎮とされている三大伯爵家の嫡男たちだな。つまりはあの武闘派令嬢の取り巻きである。情報収集でも調べたし、ダンスの講義の時にも見かけた顔だ。
剣術と槍術のアイスグレイ伯爵家、魔法と体術のマグマレン伯爵家、弓術と斥候のアプルショット伯爵家。
共に北方防衛にて辺境伯家を代々支え続けてきた、由緒ある武門系らしい。
はて、彼らとの接点と言えば……まあ言うまでもなくデルダナール嬢か。う~ん、これはあれか、お嬢様に近付き過ぎるなという警告だろうか?
だとすれば、彼女への接触もこれまでか。少し残念だが仕方ない……。
「ああ、そう緊張せずとも良い。実は我ら、貴公には感謝の念を示したく思ってな。」
「はい?」
毎回ぼこぼこにされる無様な姿でも、ウケていたのだろうか。確かに彼らから見れば、無様極まりない光景は笑うしかないだろうからなぁ……。
「ふむ、実の所、姫様、ああ、我らが敬愛するメルディエリス様の事だ。」
「君も十分身に染みていると思うが、姫様は令嬢としてよりも、武人としての在り方が強く出ておられるだろ?」
「なのでこの学園に通う事に対して、当初から随分、その、気分を損ねていらしたのだ。」
「はぁ、な、なるほど?」
取り敢えず無礼にならないように、痛みも引いた体で、直立不動で彼らの言葉を聞いているんだが……何の話だ、これ?
「姫様の武の才は、誰もが認めるところ。それは御屋形様、デルダナール辺境伯も当然のように期待をかけていらっしゃるのだが……。」
「それでも、父君としてはやはり娘には娘らしい事も修めて貰いたいと、姫君にもおっしゃっていたんだよね。」
「故に学園では、比較的『花嫁修業』の方に重点を置くようにと、送り出されてきたのだ。我らもそれに助力するようにともおっしゃられてな?」
どこか心苦しげに、あるいは気まずげな表情でこちらを見て来る三人に、あの様子ならさもありなんだなぁと他人事のように考える。いや、実際他人事だしね。
「それ故、日々の鬱憤がかなり溜まっておられたようでな、その、それを晴らすためというか、何というか……。」
「つまりだね、普段傍に控えていた僕らが、とてもとても大変だったという訳なのさ。」
「具体的に言うと、憂さ晴らしの八つ当たりが、少々激しかったというかだな。」
「……皆様のご心中、ようようお察しいたします。」
あれだけの強さを持つ人物の八つ当たりとか、下手をしなくてもこの方々以外だと、死人が出るレベルなんじゃ……(汗)。
「ところがだ、選択科目が始まってからという物、随分と気性が穏やかになられてな?」
「それもこれも、武術の講義で都合の良い発散の相手が見つかったからなんだよね。」
「うむ、我らですら耐え切れぬ本気の姫様との連戦に、まさかあれだけついていける者が居ようとはな。」
「………。」
うん、そこまで言われたら分かりますとも。つまり身代わりが見つかって、皆さんの苦労が軽くなったわけですね?
なので、その相手にお礼を言いに来てくださったと?
「分かってくれたようだな。まあ、何というか、我ら一同、貴公には感謝している事を知っておいてくれ。」
「僕らも鍛錬は続けて、いずれは君だけに負担を掛ける事がないようにするからさ。」
「それまで、姫様の憂さ晴らし、ああいや、鍛錬の相手役、しかと努めるのだぞ?」
「……しょ、承知致しました。私の力の及ぶ限りでよろしければ。」
「「「是非に頼む!」」」
い、一応、今後も取り入る機会は窺えそうって事で、うん。死なない程度に頑張りますか……。
こういうのも、怪我の功名とでもいうのかねぇ(遠い目)。




