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四十五話

 ガキィィインッ!


「くぉっ!」

「あはははっ、受けたか、受け止めたかライハウント! だがなっ!」


 辛うじて、初撃である一合目だけは受け逸らせるようになった。だが、それだけだ。

 衝撃を感じた次の瞬間には、視界から消えた少女の紫の残影を残して、まったく思いもよらない角度から繰り出されて来た斬撃に吹き飛ばされ、鍛錬場の土の上をかなりの勢いで転がり滑る。

 才能の、化け物め。くそっ!


 即座に両足を跳ね上げ、下す勢いで飛び起きる俺の姿を眺めていたデルダナール嬢の瞳が楽し気に眇められ、こちらが構えるのを待つ事なく仕掛けてくる。

 不安定な体勢からも必死になって模擬剣を『見切れる』太刀筋に合わせるように立て、それを何とか受け止める。と思った矢先に顎下に衝撃を受け、そのままふわりと仰け反りながら吹き飛ばされた。

 視線だけで何度か確認すれば、模擬剣を振り切った残心のまま天高く蹴り上げられた爪先に、何が起きたのかを納得する。

 相変わらず足癖の悪い令嬢だ、手癖も悪いしな。ともかく、戦闘に入ったら使える手段は全て使って来る、鍛錬の為の模擬戦でも手加減抜きで勝ちに来るのだ。どこまでも純粋に、楽し気に。

 それがなんとも妬ましく、羨ましく。そして楽しかった。


「まだ、まだぁっ!」

「よくぞ言った! さあ、励め!」


 うん、今日も一撃すら掠らなかったよ。レベルは俺の方が多分かなり高いはずなんだけどなぁ……。

 彼女の動きは、剣筋は見切れる。だが、それだけだ。

 圧倒的な技術の差、そしてスキル補正の差が、ステータスを全開に扱えない俺の未熟と相まって、対応が追い付かない。

 スキルというのは、まず身に付けた段階でその階級の基礎を身に付けられたという目安に過ぎない。そこからさらに熟練度を重ねていく事でより巧く、強くなっていく。それが『スキル補正』とこの世界で言われている効果だ。

 俺の場合であれば、『初級剣術』は初歩の基礎習得の証であり、これが『初級剣術(極)』となって更に熟練すれば『中級剣術』に昇華する日も来るのだろう。才能のない俺には、それがいつになるか見当もつかないが。


 そんな無才の凡人を嘲笑うが如く、才能のある者たちは容易く初級を極め、中級すら駆け抜けて、上級へと達して見せる。やがては、俺が一生かけてもたどり着けない領域までもだ。

 北方防衛の要にして王国重鎮の一角であるデルダナール北方辺境伯家が令嬢、メルディエリス・フォン・デルダナールという少女のように。

 素直に妬ましいと思う、悔しくも思う。だが、実際に目の前で剣を合わせてみれば、ただただ感嘆する、感動する。

 才能の上に、努力をしている。その上で好み、楽しんで、本気で格下である俺に対してくれる。それが分かるから。言葉がなくとも伝わってくるのだ、痛みと一緒になのはあれなんだけどな。

 だから同い年の少女にレベルで勝った上で全く敵わないのは、情けない事仕切りではあるが。この鍛錬の時間は、俺にとっても楽しく、意義があるものだったよ。

 それに、一合とは言え受けれる様になったのは、確かに俺のスキルも成長しているという証であったのだからね。


 初めて彼女の一撃を受け止めた時、一瞬驚いて、そして心底から称賛するように微笑んだ美しい顔が、今も脳裏の残っているから。

 とは言え、もう少し、あとちょっとでいいから、強くなりたいというのが正直なところかなぁ(本日も満身創痍)。

 最近は、習得した初級治癒魔法で自己治癒も出来るようになって、まだマシなんだけどね。いつつっ。

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