四十一話
また別の日には、武術の講義及び鍛錬を受講した。
「「「「…………。」」」」
そこでは俺も含め誰もが、一人の少女に魅入っていた。
紫紺の髪を邪魔にならぬように編み込んだ紫水晶のような瞳を煌めかせた一人の少女が、流麗に、華麗に、そして苛烈激烈に剣舞を踊る。
教師であり教官である者たちと次々に打ち合い、退けていく姿は戦女神の如く。飛び散る汗さえも美しく、子息子女、身分の上下問わず誰もが始終まで見とれ続けている。
デルダナール辺境伯家令嬢、メルディエリス・フォン・デルダナール。
齢十三歳にして上級剣術に、槍術、弓術、体術を中級まで修め、魔法も上級火魔法、中級風魔法と属性は二種のみだが才能に溢れ、天は二物も三物も与えるものだなと俺が不公平を嘆いたのは仕方ない事だと思いたい。外見も完璧に整った上でそれなんだからなぁ……。
「流石デルダナール家のご息女だ、我々でも荷が重いとは。これでは指導する立場がないな。」
「むしろ彼女にも、生徒たちを教える側に回って貰った方がよいでしょうな。尤も、耐えきれるかどうかの問題もありますが……。」
「ふむ、優れた戦士が優れた教官になれる訳でもないか……手加減、苦手そうだしな。」
「逆に言えば、それくらいしか欠点がないとも言えますね。」
教官たちの間でそんな会話が交わされ、あれよという間に辺境伯令嬢は指導側の立場に立っていた。まあ、順当だろうか?
勿論、それだけ皆の心を鷲掴みにした相手だ、彼女の指導への希望者は殺到した訳だが……。
「ぎゃっ!?」
「足運びがぬるいっ! 鍛えなおしなさい!」
「かふっ!!」
「どうしてそこで大振りになるのよ。隙だらけなのが分かるでしょう!?」
さーせん、傍で見ててもわかりませんです、はい。
ともかく強すぎるのだ、彼女。そして受講者を自分の基準で判断して教えるものだから、そりゃあついていけないのは道理じゃよ、ふぉっふぉっふぉ(どこぞのマスター風に)
と、内心で呆れながら眺めている間に、その光景にビビった後発の受講者たちはすごすごと希望を撤回し、他の教官にちゃんとした手ほどきや型の修練を見て貰うようになっていく。
彼女の派閥の取り巻きである武門系貴族も大分粘っていたようだが、三戦もするとボロボロになって鍛錬場の隅で体を休めるようになり、相手の居なくなった少女は『これだから最近の貴族は……。』などと不平不満をぶつぶつと唱えながら素振りを繰り返していた。
いや、うん、貴女が強すぎるんですが。ときっと全員が心の中で突っ込んでいたに違いない。
女子中学生くらいの女の子の戦闘力じゃねーよ。これだからファンタジーはっ(憤慨)。
とは言え、まずは顔だけでも見知って貰わないと、俺の構想が成り立たない訳で。覚悟を決めて、内心で泣きながら戦闘令嬢の元へと参じる。腰が引けてるのは見なかったことにして?(諦観)
「ん? あら、まだ希望者がいたのね。いいわ、そう来なくてはね♪」
「は、はい、ライハウント子爵家が一子、メルクトと申します。どうかご教授に与れたなら光栄で御座います。」
「戦場でそんな丁寧な言葉は必要ない。そういうのは社交の場だけにしなさい。行くわよ!」
「っ!」
で、まあその、ろくに防御も受けも出来ずに吹っ飛ばされる訳なんですが。マジで手加減知らないなこの脳筋令嬢!?
だが幸運にも、いや、この場合は不幸にもだろうか。俺は、それに耐えてしまった、耐えられてしまった。まともに食らっても、レベリングにより強化された生命力と体力、そして頑健さはパッシブで発揮されるのだ。
いいのを一撃決めて、それを終わるだろうと詰まらなさそうにしていたデルダナール嬢が、平然とした様子で運動着の土汚れを叩きながら立ち上がってきた俺を、きょとんとした表情で見てくる。
だが次の瞬間、すっと瞳が細められる。それは猫が甚振り甲斐のあるネズミを目にしたような、捕食者で嗜虐者を思わせる、歓喜と綯い交ぜになった視線。
気づいた俺は、それだけでもうびっしりと脂汗が流れ出し、背中が冷たくなる。あ、これダメな奴だ。
「……ふふ、うふふふ、くふ、そっか、今ので倒れない処か、さして効いていないんだね君?
いいよぉ、すごくいい、さっきの手応えがいけるなら、もっと大丈夫だよね? まだまだ倒れないよね? あは♪」
「は、はは、は、え、ええ、たぶん?」
「くふ、じゃ、いくわよっ!」
「ひっ!? 早っぎゃああああああああああああああああああ!!?」
この後、受講時間目一杯までサンドバックになりましたとさ。
レベル上げすぎるのも善し悪しだな、これ。ごふっ。(満身創痍)。




