三十九話
あれから暫く経ち、演技による精神的ダメージにも幾分か慣れた(ゼロには出来なかった)。
その間には、メイドたちを練習相手や、レカリール先生の尊い犠牲(という名の練習台)に連勝記録を継続するなどもあったが、まあ割愛しよう。
ぶっちゃけると、本来の目的対象は同世代の令嬢たちなので、年上相手の経験値というのはあまり参考にならないかもしれないのだが。
なら何故やるのかって? そこにクール系美人がいるからさ! いや、いちいち先生の反応が可愛くて調子に乗ってしまった感はある。反省。
その結果、一番変わったのが俺の派閥に所属する令嬢たちへの対応の仕方かな。
「「「おはよう御座います、ライハウント様。」」」
「ああ、おはよう皆。」
以前までは普通に挨拶を返すだけだったのを、無駄にキラキラエフェクトが飛びそうな気がする、甘い微笑を添えるようになったんだけどね。
「「「はぁう♡♡♡」」」
うん、母上の遺伝子強い(恐れ)。
これまでも多少は見た目に身分もあって色目を感じる事があったけど、意識して始めて見るとより反応が顕著になったわ。
ただ、演技で愛想を振りまくのは『相手のいない』令嬢限定に、と可能な限り気を付けている。
俺の派閥は、そもそも望まぬ相手に好き勝手餌食にされるのを逃れたい令嬢たちが集まったのが最初で、そんな彼女らに秘かに気が有った子息たちが釣られて集まった形なのは前も言った通り。
他の派閥の首魁たちは、自身の好みの令嬢たちには片っ端から手を付けるような感じで、飽きた所で取り巻きの子息たちに下げ渡す、みたいなあれがほとんどで。
うちはそういうのは一切なく、派閥内での異性交遊に関して無理強いでなければ推奨していた。
おかげでそれなりの数の恋人関係が構築されているのだが。しかし皆は、それが一時の夢でしかないことも十分理解している。
彼らは下級とはいえ、貴族の子息子女なのだ。故に婚姻に関して、家の利益を決して蔑ろに出来はしない。そして学園に入学する時点で、それぞれに覚悟は決めている筈なのだ。ある程度は。
「あの、これ……手作りなんですけれど、よろしければ。」
「へぇ、クッキーかい? ……うん、おいしいよ。ありがとうな。」
「はい♪」
「ライハウント様、今度のお休みにお茶をご一緒して頂けませんか?」
「ああ、喜んで。君が淹れてくれるお茶は美味しいからね、楽しみにしてしまうよ。」
「ずるいですわ、わたくしもご一緒したいのにっ!」
「はははっ、困った事に、俺の体は一つだからね。でも君との時間も必ず作らせて貰おうとも。だから安心して待っておいで?」
「ぁ、は、はぃ……♡」
だからこそ俺は、彼ら彼女らの、学生時代の二年間だけ見る事が出来る青春を守りたいと思った。傲慢かもしれないが、前世の経験分だけ余分に精神が歳を食っている一人の大人として。
政略結婚だからと言って、幸せになれないとは限らない。だが、幸せな思い出は少しでも多い方がいい。
想い人がいる者にはそれを後押ししつつ、そうでない者には甘い言葉と振る舞いで、短くも儚い夢に酔わせよう。だが決して直接的な行為には及ばぬように。
浅き夢みじ、酔いもせず。いずれ覚める夢ならばこそ。




