三十八話
そして二話目。
ちらちらとこちらを窺っては離れる視線の気配を感じながら、俺からは何も言わず、ただ時間の経過するに任せる。
「そ、そろそ……っ」
徐々に耐え切れなくなったのだろう、終了を口にしそうになった彼女の抱きしめている腕を、俺の腕がここに至って抱きしめ返す。
そうして瞼を開いて、潤ませた瞳で甘え縋るように。
「もう少し、もう少しこのままで……駄目、でしょうか?」
「~~~~~っ、も、もう少し、だけだぞっ。」
「はい……。」
それから暫くして、彼女に礼を言って開放して貰い、再び対面のソファへと戻る。
「「………。」」
互いに無言が続くが、俺の方はニコニコと満足げに、レカリール女史の方は何かを堪える様にプルプルと震えていたのが対照的である。
流石にこれ以上攻めると危険であると判断し、戦略的撤退を計る事にした。
「ありがとう御座いました、先生。今日はこれで失礼させて頂きますね。」
「……ああ、判った。気をつけて帰りたまえ。」
「はい。」
一応最後にと、改めて瞳に熱を込めて、じっと彼女の瞳を見つめてみる。
途端にうろたえた様に視線を逸らされたタイミングで立ち上がり、従者を伴って教員室を辞した。
そのまま暫く校舎の廊下を歩きながら、意識して人気のない方に向かう。
そして。
「うごふっ!!」
あまりにあまりな、己の柄から外れすぎた演技に時間差で逆流してきた精神的ダメージを受け止め、その場で崩れ落ちそうになった所で静かに付き従っていたレイセルによって抱き支えられていた。
「坊ちゃま、それ程お辛いのでしたら無理を為さらない方が。」
まさかこんなリスクが返ってこようとは、このリハクの目を以下略!(自虐)
あれだよ、俺の中の俺自身のイメージって、今もまだ前世のメタボ中年おっさんから変わってねーんだよっ!
それがあんな駄々甘な台詞を垂れ流す自分の姿を想像してみろ、危うく致命傷になるところだったわ!
まさか前世の自分から『魂砕き』受ける羽目になるとはなっ! マー○王にだって斬られた事ないのにっ!(どんなネタだ)
「うぅ、だが、これからはこういうのが、必要なんだ……派閥の者たちに手を出される、前に……出来るだけ早く……なんとしても。」
「坊ちゃま……。」
心配そうな顔で見つめてくる従者メイドに、弱弱しく微笑んで見せながら、前々から考えていた構想を口にする。
「何とか、この『才能』の扱い方を物にして、なるだけ多くの上位貴族の令嬢を落として、派閥の盾になって貰わなきゃ……!」
「理由は理解しておりますし、努力なされている事も判りますが、おっしゃられる内容は割りと最低で御座いますよ。」
「ウン、ソウダネー。」
でも他に手段を思いつかないんだよ! し、仕方ないじゃないか他全部凡才なんだしっ。だから仕方ないよね? うん、たぶん恐らくいやきっと。メイビー。
◇
なお、どこぞの子爵家嫡男が退出した後の教員室では。
「……私は、何か、負けてはいけない勝負で、負けた気がする。」
ソファに腰を下ろしたまま、ローテーブルに両手を突いてプルプルと震えながら項垂れる一人の女教師の姿が。
「くっ……だが次があれば決して流されたりはせんぞ。見ているがいい、ライハウントめっ!」
と、無駄な決意を噛み締めていたとか居なかったとか。
なお次の勝負を望んでいる時点で、深みに嵌っているような物なのだが……彼女がそれに気づくかどうかは神のみそ汁。
坊ちゃま:目的の為には手段を選ばぬっ!
メイド:その内に石を投げられますよ坊ちゃま。




