三十四話
こうして、『模擬決闘』の幕は下りる。
勝者となったドーラバル殿は、俺の健闘を称えに来た。
「いやはや、僕なんてあいつと訓練するとすぐ負けるのですよ?
ライハウント殿は同い年とは思えぬ腕前ですね。」
「それ程でもありませんよ。やはり本当の戦士には全く及ばない程度ですからね。
そしてドーラバル子爵家は、よい家臣を持ちだ。」
そんな会話を交わしていると、この騒動の発端であり景品となった美しきヒロイン嬢が、主人公君が運ばれて行った保健室からクラニッツァ先生の手で連れられて来られる。
すると目の前の少年は優雅に辞した後、下心を隠さない満面の笑みを浮かべて彼女の元へと足早に向かい、俺は浮かべていた笑みに冷ややかな気持ちを隠して見送ったよ。
「………っ。」
ヒロイン嬢から、何故か縋る様な視線を向けられたが、知った事ではない。
これまで幾らでも、何処かの派閥に入る時間はあったのだ。愚連隊に邪魔をされていたのだとしても、本人がその気になれば、いつでも機会は作り出せた。
そうしない事を選んだのは、彼女自身。ならばこの結果も、粛々と受け止めて欲しいものだよ。
背を向けて派閥の者達の元へ戻る。俺が何とか出来るのは、俺の意思で救い上げた者と、自分の意思で俺の元へ集った者達だけだ。分を越えた腕は伸ばせないし、受け止められない。
その上に、優柔不断なトラブルメイカーを抱え込む余裕など、何処にもないんだよ。
「お疲れ様でございました、坊ちゃま。」
「あぁ、本当に疲れた。……次があれば、全てお前に任せるよ、レイセル。」
「……はい、坊ちゃま。その時は、全霊を賭して務めさせて頂きます。」
静かに、淡々と、しかし何処か熱の篭った声音で応えるメイドへと頷き、俺は皆から健闘を賞賛されながら、共に寮へと戻っていった。
翌日、ドーラバル殿の隣で、べったりと甘え尽くすヒロイン嬢の姿と、治癒魔法で傷一つ残していないのに、重傷を負ったようにぐったりと席に伏せる主人公君の姿を見て、やはり少女といえど女は怖いな、と改めて思う。
綺麗な顔をしたませた少年の手管を褒めるべきか、それとも強かな本性を露にした少女に慄くべきか、さてどっちだろうなぁ……(遠い目)。
愚連隊の敵意も、彼の子爵家派閥と裏切り者の少女へと一心に向かっているようで何よりだ。多少はこちらにも敵意を向けてくる者は居るが、もはや大して問題にもならないだろう。
これからまた、他派と争わぬように傍観者として努めながら、準備も進めていかねばならないしね。
三ヶ月の間の基礎学科が終われば、午後からは選択科目が正式に始まりを迎える。それまでに俺は、唯一凡才の身に与えられた分不相応の『才能』を、使いこなせる様にならなければいけなのだから。




