三十三話
再び闘技台の上に俺は立ってます。
対面には、木剣を自然体で持つドーラバル家の護衛従者。順当に二戦目が始まった訳で。
あちらが動く様子を見せないならと、こちらから仕掛けていく。
ま、小細工する必要も無く俺が負けるだろう。
面倒ごとを押し付けたいという思惑を別にして、実戦経験のある戦士ってのはLVだけじゃ計れない強さを身に付けるんだよ。
例えば、俺は自己鍛錬で時折レイセルに模擬戦の相手を頼むが、十戦して九戦は負ける。何故か?
LV差でこちらが上でも、相手には実戦で磨き上げてきた勝負勘、技術、経験の蓄積が圧倒的だからだよ。その上で、対する俺はLV相応のステータスの本当の『全力』に、振り回されてしまうのだ。
仮想設定したギアでの段階出力でしか、戦えないんだ。
俺は護衛たちとのパワーレベリングで高LVになっただけの養殖貴族だ。十歳の頃に受けた資質鑑定では、武術の才能は努力次第。これはつまり、特に秀でた才能も無いが、『一生を武に費やせばあるいは』という意味なのだから。
そして実戦経験など、護衛が前に出る事、敵と直接交戦する事を殆ど許さないのだ。それが彼らの仕事なので、文句も言えないしね。
まあ、王都に来る少し前になって、多少は格下の魔物限定で、厳重な監視の下で許してくれる様になった所だったけど。
こちらの世界に来て、まだ怪我らしい怪我もした事が無い(幼い頃に転んで擦り剥いたりはある)十三歳の肉体は、例え前世の記憶と経験があるとはいえ、限度を超えた痛みへの耐性も無いだろう。
対人戦の経験など、実際の勝負となれば先の主人公君とのあれが初戦闘だったといえば、分かってくれるんじゃないかな。……道中の盗賊とのあれは、実戦には入らないし。
彼に勝てたのは、ただただLV差で圧倒できる相手だったからに過ぎないのだ。
「ふっ!」
「………。」
俺が繰り出した斬撃を、青年はゆるりと余裕で避ける。瞬間に発動させた火玉の連打も、軽いステップでするすると避けられ、あるいは身体強化を強めにかけて無視され、逆に踏み込んできた相手からの一撃を受け止めさせられる。
受け流すなんてとんでもない。初級剣術程度でそんな事を試せば、今頃手から木剣が叩き落されていたな。
「貴族家の次期当主であられるとしては、中々のもので御座います。我が主君にも見習って頂きたい所です。」
「ありがとう、素直に受け取っておくよ。」
「はい。」
ステータスに任せて跳ね上げ、同時に土魔法で相手の足元を隆起させてバランスを崩させようとするが、それも如才なく後退されて意味を失う。
逆に連撃を受け、必死に防御しながら各種魔法で追い込まれないよう牽制を繰り返すのがやっとさ。
さっき次期当主としてはの言葉通り、本来当主の仕事は武力ではない。本命は、過不足無く領地を治め、可能であれば栄えさせ、治安を維持し、法を守らせ、税を滞りなく徴収し、それを王国に納める事なのだから。
例外に、領地を持たず役人としての地位を受け継ぐ法衣貴族も居るけどね。
後は国境線や強力な魔物が徘徊する魔境やダンジョンを抱える領地などは、領主一族にも武力が相応の比重で求められたりもするみたいだが、そういうところはそもそも領地が広く爵位も上位で、家臣人材が豊富で、兵力も多いのだ。
そして我がライハウント領はそれにあたらない。
俺の代になろうとする今は、そのパワーレベリングに合わせて家臣の騎士や兵士たちのLVが底上げされ精強になってきているが、それがそもそも異例なだけである。
「……敵うとは思っていなかったが、もう少し善戦したかったな。」
「どうか、そういう事は我ら家臣の者にお任せ下さい。貴方様に付き従う彼女も、同じ思いであられましょう。」
「そうだな……その通りだ。」
相手の技術によるフェイントと本命の攻撃全てに、見切れてしまうがゆえに反応し、させられ、精神的にも体力的にも疲労して、やがて弾き飛ばされた木剣に痺れる手首を押さえる俺に、首元へ添えられる青年の木剣。
そこそこの時間、持った方だろうかな。




