三十二話
闘技台から降りてベンチへと向かうと、喜び沸く派閥の子息や令嬢たちが迎えてくれる。
貴族らしく、優雅さを忘れぬ程度に興奮した様子を浮かべる彼らの様子に、俺も笑みを浮かべつつ腰を下ろせば、左右から差し出されるタオル。
「お疲れ様でした、まずは一勝、お見事でございますわ。」
「本当に。さすがはライハウント様ですね。」
「ああ、ありがとう。」
受け取ってから誰かと見れば、それは派閥に最初に参加した例の騎士爵令嬢二人だった。特に汗は掻いていなかったが、それぞれで顔を拭いたり手を拭ったりして置く。こういう時、片方しか使わないのは何故か駄目なんだよなぁと、実家でメイドたちへの対応で学んだ。
しかし普段なら、こういうのは従者メイドの彼女が率先してやるのだがと見回せば、どうやらレイセルは予備の木剣を受け取って来てくれたらしく、俺の前まで来て屈んで差し出してくれた。
「おめでとう御座います、坊ちゃま。」
「ああ、何とかなったよ。」
受け取ってベンチに立てかけつつ、視線でどういう事かと問えば、用意してあったのだろう果汁を混ぜた水を勧められた後、動きで乱れた服を整える振りをしながら耳元で囁かれる。
ちなみに、飲み食いする物は貴族の場合、一応毒見が必要なので周囲の者達が用意していないのは普通の事である。
(お二方とも、外聞的には坊ちゃまのお手つきになったと言う呈ですので。)
(なるほど、わかった。)
そういえばそうだったなーと、いまさら思い出して内心で微苦笑する。
実際は、派閥間での俺との連絡要員としてしか接していない訳だがね。いつの間にか他の面子を差し置いて派閥の幹部っぽい扱いになっているのは、そのせいもあったんだよなー、と二人の顔を順に見れば、にっこりと『分かって下さいましたか?』というように笑みを向けられ、また表に出さず苦笑してしまう。
「なかなかに見応えのある勝ちっぷりでしたね。彼が吹き飛んだ時には、胸がすく思いでしたよ。」
「ドーラバル殿。」
周囲が落ち着いてきた頃に、言葉通り気分のよさそうな様子でやってきた少年の言葉に立ち上がれば、派閥の者たちは数歩下がって上位者への礼を示す。
「後の男爵への対応は、学園に任せておけばいいでしょう。次は純粋に、うちの従者との対戦を楽しませて頂きますよ。」
「はははっ、お目汚しにならねばよいですがね。」
互いに残る面倒ごとへ思いを馳せて笑みを交わし、彼の背後に居る従者の青年に視線を向ける。
気づいて浅く一礼してくる姿に、さてどうやって彼にうまく負けて、ヒロイン嬢と残る派閥の敵意をドーラバル派閥へ押し付けようかと思案する俺であった。




