三十話
様子見は終わり。ギアを一段上げる。
「ぐあっ!?」
向ってきた主人公君の木剣を軽々と叩き返し、それを顎に喰らって彼が蹈鞴を踏んで仰けぞる。がら空きの腹部へ、足刀を叩き込む。
「げぼぉっ!!?」
吹き飛んで闘技台を転がって行く少年の、小さな身体に、僅かに込み上げる罪悪感を飲み込んで。
小さな火の玉を、彼の周囲に無数に発生させる。そしてランダムに叩きつける。
三歳の頃からレベリングを始めた時、最初の上がりやすい時期にいきなり跳ね上がったレベルが原因で、日常生活で支障が出るようになった。
何しろ比例してステータスが上がり、身体の動かし方がそれに振り回されすぎて、一時は歩く事すら難しくなったのだ。
メイド達に補助されながら、慣らして、レベルが上がってまた崩れて、慣らしてを繰り返して。
どうにか自分の身体に、ギアをイメージした出力の段階を設定する事で乗り越えられた。
「ぎっ、がぁ、ぐぅっ! ひ、ひぎょう、ものっ、ぜいぜい、どうどうとっ、じょうぶじろっ!」
「して居るじゃないか。初級魔法の使用は許可されていただろう?」
それは魔力の出力に置いても同義だ。
連続して弾ける火玉は、実際殺傷力なんてほぼない。誰でも使える身体強化さえあれば、火傷は防げるし、威力は軽く殴られた程度の衝撃が残るだけだ。
一発だけならば。
「グッ、アガッ、ヒッ、フグッ!?」
ただそれを、レベルで増えた魔力により、ごり押し連打しているだけで。何しろ俺のステータスと来たらね。
◇
名前:メルクト・フォン・ライハウント
年齢:十三歳
性別:男
所属:オルトニクス王国ライハウント子爵家
レベル:七十二
スキル:生活魔法 初級剣術 初級体術 初級火魔法 初級風魔法 初級水魔法 初級土魔法 身体強化(微)
称号:ライハウント子爵家次期当主
状態:過保護 愛され主君 ダンジョン踏破者
◇
これだもんよ。
ダンジョンだ、絶対ダンジョンで何かあったんだよ! いきなりレベルが跳ね上がって、だけど過程を色々と覚えて無いんだよ!
護衛のあいつらは、特に何もなかった、普通だったって毎回答えてやがったけどなぁっ!
普通にやっててこんなに上がるか馬鹿野郎! ダンジョン踏破者って何だよ、まったく記憶にねーぞっ!?
卒業して戻ったら、絶対追求してやるからなぁあああああああああああああっ!!
でもま、取り敢えずはさ。
君の大好きな力の理論で、『レベルを上げて魔法で殴ればいい』を体現して、叩き潰しておく事にするよ。
ヒロイン嬢の事は、ドーラバル殿に任せれば悪いようにはしないさ。彼は女性の扱いも慣れてるしね、可愛がって貰えるよ。
だから君は、青春の思い出に敗北とNTRの苦い記憶を焼き付けて、残りの学園生活を大人しくして居たまえ。
そうやって、子供は大人になって行くんだよ。やがてオッサンにもな。




