二十五話
取敢えず、凡人が思いつく限りの情報を聞き出したと思う。
恐らく聞き漏らしはあるだろうが、思いつかないのだからしょうがない、と割り切るしかないからね。
「ありがとう御座いました、参考にします。」
「うむ。また何か聞きたい事が出来たら来たまえ。」
「はい。ところで、彼についてドーラバル殿はご存知だったのでしょうか?」
「ああ、ドーラバル君なら、昼休みに同じ事を聞きに来たよ。」
「なる程、そうでしたか。」
ふむ、やっぱり彼は真っ当な部類みたいだな。当たり前に慎重で行動も早い。
ならば俺が余計な気を巡す必要も無いな。
「ではこれで失礼したく思いますが、もう一つよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「用がなくても訪ねてはいけませんか? 先生のお茶が気に入ってしまったので。」
「む……。」
紅茶とは違う、見た目黒っぽいのに味は前世の緑茶というか、ほうじ茶に近い味わいで懐かしい気分になってしまった。
郷に入っては郷に従えと、生まれ変わったこちらの世界の食べ物関係にも、大分馴染んだと思ってはいたのだが、不意に郷愁を掘り起こす味に出遇ってしまったらな……。
いや、品名を聞いて自分で買い求めればいいだけか。流石に今のは図々し過ぎだろ。
「いえ、すみません。厚かましいお願いでした、お忘れください。」
「構わないぞ。」
「ぇ?」
「だから、茶を喫みに来るくらい構わない。ただ、来るなら放課後にしてくれ。それ以外は外に出ている事が多いからな。あと留守だったら、諦めてくれ。」
「ぁ、はい、はいっ! ありがとう御座います、ではまた今度、お邪魔させて頂きます!」
「……君は本当に、変わっているな。」
よっしゃっ、懐かしい味を、好みの女教師と差し向かいで楽しめる時間ゲットだぜ!
いやー、正直主人公君の情報とか如何でも良くなるくらいの成果だわ。
面倒ごとの臭いにうんざりして来た所で、思わぬタナボタのお陰で一気に心が軽くなった気がするよ。
「では今度こそ、失礼致します!」
「ああ、その……またな。」
教員室を辞して、ちょっと浮かれ気分で歩いていたら、隣に歩調を合わせて無言のレイセルが進み出て来た。
普段は一歩ほどの間隔を空けて付き従う彼女がこうして来る場合、俺に対する諌言、つまりはお小言がある場合が殆どである。うん、さっきの毒見の件かな?
「悪かった、無用心なのは分かっていたが、まずは先生の懐に飛び込まないとと思ってさ。」
「それもですが、それだけでは御座いません、坊ちゃま。」
「んん?」
はて、他に何か注意されるような行動をしただろうか、と来訪からの自身の行動を思い返してみる。
うん、あれ以外は特に下手を打ってはいないと思うんだが……。
「随分と、あの女性を気に掛けていらっしゃるようでしたね、坊ちゃま?」
「へ?」
「じー……。」
いや、擬音を口に出しながら見つめられても。何なんだ一体?
「もしかして、坊ちゃまの本当の好みはとしまむぐっ。」
「よろしい、ちょっと黙ろうかレイセル。お前は誤解している。」
「むぐ。」
頷いてくれたので、彼女の口を塞いでいた手を離す。
「じー……。」
「……はぁ、あのな――。」
いやまあ、確かに好みと言えば、前世ではど真ん中ストライク程度の好みではあるよ、うん。ただそれは属性って意味だからね?
あの顔とか声とか性格とか、クール系美人さんは全部俺の好みなの。そういう意味では、レイセルも間違いなく俺の好みだからな?
という様な事を言葉を選んで、変態チックにならないように気をつけながら、従者メイドに言い聞かせてみる。
「私は、坊ちゃまの好みですか。」
「そうそう。」
「坊ちゃま。」
「うん?」
「今夜は沢山、甘えて下さいね。」
うん、更に言えば何よりも。クールさんがデレた時のギャップがね、一番の好物なんです。はい。




