二十三話
室内に招かれ、勧められた応接セットのソファに俺が腰掛け、レイセルがその脇に立つ。
女教師が手ずから茶を淹れ様としていたので、メイドである従者が手伝おうと動き掛けたが、それを手を上げて制された。
「そのままでいい。これでも茶を淹れるのは得意でね、書類仕事合間の息抜きにもなっているんだ。
まあ、冒険者上がりの教師が淹れる茶など飲めないというのなら、無理には勧めないが?」
「いえいえ、先生のような美人が手ずから入れてくれるお茶ならば、喜んで頂きます。是非に。」
「……流石は子爵家の嫡男かな、教育がいい。如才なく世辞を使うものだ。」
「ふむ、本心からですが。」
「………。」
いや、反射的に前世で身につけたおべっかの技術がするっと発動したのもあるんだけど、嘘は言ってない。だって彼女の容姿は勿論、多分性格も俺好みなんだよね。
ちょっと灰がかった白髪に近い髪を後ろに纏めてポニーテールにした、碧眼の理知的美人。冷たく感じる切れ長の瞳や淡い唇に、表情を余り変えず、スッと切れ味の良さそうな刃物を思わせる透明感のある声色で紡がれるクールな言動。是非その声でののしってく、げふんごふっ、な、何でもないぜ!
スタイルもすらりとよく、胸は少し物足りないが、動きの芯がぶれない無駄の無い所作。冒険者上がりと言う事は武術も相応に修めているだろうから、そのお陰だろう。
うん、実に好みなんだよ。歳が近かったら一度くらい口説いてるね!
会話が途切れてしばし、彼女が目の前の席に着くのを待ってから、配膳されたティーカップに一口つけて笑みがこぼれる。
「美味しいですよ。」
「無用心だな、毒見もせず差し出された飲み物を口にするとは。私がその手の輩だったら如何する気だ?」
「貴族としてはそうでしょうね。ですからこれは先生への信用の前払いという事で。」
「……ははっ、なるほど。光栄な事だといって置こうか。」
「はい。」
隣からちょっときつめの視線を感じるので、寮に戻ったらレイセルからお小言を貰うかも知れないなぁ、と内心で苦笑しつつ、本題に入るために姿勢を正す。
「それでは質問をよろしいですか?」
「聞こう。」
「彼、アドヴェンチェル男爵家子息、エリクオル・フォン・アドヴェンチェルは『何』ですか?
まかりなりにも男爵家の出でありながら、貴族社会の常識に疏すぎる。身分という物を根本的に理解していない、思考の根底にそれが根を張っていない。
あまつさえ、その考えを周囲に発信して同調者を増やして行く始末だ。王国貴族として、あんな子息はありえない。」
「………そうか、そうだろうな。当然、常識的な貴族が見ればそう思うだろうさ。」




