一話
あ、生まれ変わったんだな、と自覚したのは割りとすぐだった。
赤ん坊の頃は禄に目も見えない、耳も聞こえない、言葉もしゃべれないと三重苦ではあったが、寝て過ごすのは前世から得意(?)な生活習慣だった為に、それほど苦痛だと感じなかったのは幸いだ。
お腹が減れば泣き、おしめが気持ち悪ければ泣き、都度に誰かが傍に居て直に対応してくれるみたいだったのは、生家がそれなりに裕福だったお陰らしい。
所謂御貴族様の一家に生まれたと理解したのは、生後どれくらい経った頃だろう、よく覚えていない。
目が見えるようになると、それまで反射的に授乳を受けていた相手をようやく観察できるようになる。
どうも二人の女性から世話をされていたらしく、一人は金髪に翡翠色の瞳を持った凄い美人。慈しむような視線と語りかけてくる言葉の雰囲気(未だ言語理解出来てなかったし)で、こちらが母親だと判った。
もう一人はどうやら乳母だったらしく、黒髪に琥珀色の瞳のメイドさんで、こちらもおっとり美人といった風情でな。
相手の容姿を確認出来た俺は、それはもう有頂天に喜んだ。
あれだ、前世はもてないオッサンだったからね、そんな美人さん達のお胸を堂々と遠慮なく吸っていい立場と成れば、そらもう遠慮しない訳ですよ。
きもい? うぅ、否定は出来ないが、同じ男なら、きっと判ってくれる人も居る筈……いるよな?
ま、まあともかく、そんな感じで健やかに育った三歳児の頃、暮らしていた屋敷の雰囲気が突然重苦しく沈んだ時期が在った。
母上は毎日泣き暮らしているし、仕えている奉公人のメイドや執事なども辛そうな顔をしながら、しかし俺の前では普段通りを粧って世話をしてくれる。
やがて理解したのは、一月に渡って父上の姿を見なくなった頃だ。
憔悴しながらも政務を代行し始めた母上と執事長の会話から、領内の視察に出ていた父上が、護衛の騎士もろともに魔物に襲われ、帰らぬ人となったらしい。
「当家の跡取りは、あの子一人。もう二度と、このような事が在っては成りません。」
「はい、奥様。坊ちゃまのレベリングですが、本来は五歳からの予定で御座いましたが、前倒しにして直に始めましょう。勿論徹底的に安全策を講じた上で御座います。」
「……そうね、こんな事になったのも、あの人が争いを好まない性格で、子爵家当主としてはレベルが低かった事も一因なのでしょう。そんなあの人だからこそ、好ましかったのだけれど、ね。」
「はい……良き御当主様であり、よき御領主様で在られました。ですがだからこそ、残された坊ちゃまを失うわけには行きますまい。」
「判っています。必要な手配をお願いね。」
「承知致しました、万事お任せ下さいませ、奥様。」
その翌日から、なんか護衛の騎士三十人以上に囲まれながらの、パワーレベリングが日課になった。初めての外出が魔物退治に成った三歳児なんですが、これ何の冗談?
というか魔物居たよ、魔法在ったよ、剣と鎧の騎士だよ。もしかして、転生したのはテンプレ的なファンタジー異世界だったらしい。