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ターゲットアイコン様

ギルドの真向かいに建っているサラが部屋を取ってくれた宿屋は、木材で作られたドアにドアベルが付いているのでカルミアが開けるとカランコロンと音がした。

既に夕刻は過ぎている為か、宿屋の一階にある食事処では酒盛り以外の客は居なさそうだ。

ドアを通りすぐ左手のカウンターにはダッカまでとは言わないが、それでも十二分に迫力のある男性がカウンターに両肘をついてテーブル席の酔っ払い達と談話中だったようだ。


「いらっしゃい、生憎だが今日は満室だぜ」


ややぶっきらぼうにそう宣言された。


「えっと……部屋はサラさんが取ってくれたはずなんですが」


そう言い終わるとカウンターの男性と、テーブル席でカルミアをチロチロ見ながらコソコソ話していた酔っ払い達が一斉に目を見開いた。流石に驚かれすぎて一歩引いてしまう。


「……てぇとつまりお前さんがカルミアかい?」


頷きで返して、発行されたばかりのギルドカードを引っ張り出しカウンターの男性に手渡した。

ギルド規約の説明を受けている時に、ギルドと提携している施設ではこうすれば良い……そう教わってあるし、サラからこの宿屋がギルド提携であると聞いていたからだ。


ギルドカードを受け取った男性は、ギルドの受付が使っていたような道具にカードをセットしてA4よりは一回り小さい画面を確認した。それが済むとカードを返されたのでまたしまい込んだ。


「間違いねぇみたいだな。ようこそ"海鳥亭"へ、俺が店主のバロックだ。よろしくな嬢ちゃん」


ダッカと違って少しばかりも笑顔を見せないバロックの迫力に気圧される。


「よ……よろしくお願いします」


一歩後ずさりながらもどうにか返事を返すと、バロックが呼んだメイド服の女性に案内されて三階の一番奥の部屋に到着した。


「こちらがカルミア様のお部屋になります。朝と夕に一階の食堂でのお食事がサービスとなっておりますのでご利用ください。鍵はこちらになります、それではごゆるりとどうぞ」


「ありがとうございます」


案内された部屋で防具一式を外し、水回りを一通り確認した。前日に泊まった宿で見慣れない魔方陣の使い方をサラからレクチャーされたので困る事も無い。


「風呂釜は無いけど……この天井に張り付いてる魔方陣はシャワー用のかな」


カルミアが御手洗の隣に見つけたスペースはそこだけ床材が水捌けの良さそうなタイル張りになっており、天井にバスケットボール程の直径の丸い魔方陣が付いているし、壁にはスイッチであろう四角形のタッチパネルの様なものが有る。

これに酷似した物を初めて見た時にサラから「魔力を通せば使える」と言われ理解不能だったが、要は触れば良いという事だった。


ともあれ、昨日は劇的なビフォーとアフターに初の戦闘シーンとイベント盛り沢山で風呂にも入らず寝てしまったカルミアはここに来てようやくシャワーで汗やら砂やらを洗い流す事が出来た。


「あぁ……サッパリしたぁ」


部屋に備え付けてあったタオルで水気を拭き取り、これまた備え付けてあった寝間着であろうロングTシャツの様なベージュ色の服を着てベッドにダイブした。


(ドライヤー的なのは無かったな……まぁいっか)


そんな事を考えている内にいともあっさりと眠りに落ちるカルミアだった。

部屋に入りシャワーを浴びているその間に、宿屋の一階でバロックが目の前を通っていった絶世の美少女の話でざわめく宿泊客に「うちで問題起こしたらタダじゃ済まねぇぞ」と恐喝めいた忠告をかましたおかげで至極平和な夜が訪れている事など知る由もない。


翌朝、すっきりと目が覚めたカルミアは自分の装備に身を包み一階の食堂へと足を運んだ。

宿代に含まれるサービスとして朝食は二種類、夕食は三種類から選べるらしく今日の朝食は「オーク肉定食」か「ガッルスサンド」だった。


(昨日の晩御飯に出てきた唐揚げ、サラさんはガッルス揚げって言ってたっけ)


実際、食べてみたらガッルス=鶏だったのでガッルスサンドはチキンサンドだと考えてそれを注文した。オークと言えばカルミアの知識では豚のモンスターであるから予想では豚肉に近いのではと思っているが、正直まだ挑む気にはなれない。

周囲にはカルミアと同じように朝食を摂っている冒険者風の人が何人か居て、定食らしきワンプレートを食しているのを見る限り見た目はやはり豚肉だが……それにチャレンジするのはまた次の機会にと昨日とは別のメイドさんが運んでくれたガッルスサンドを頬張るカルミア。

日本で食べた食パンとは違い、パンはやや硬めだがしっかりと下味の付いたガッルスの肉はとても美味しく、ペロリと平らげて早速依頼を受けに行こうとやや早足でギルドに向かった。


「おはようございますカルミア様、イークハーブの採集のお仕事ですね?」


なるべく人目につかないように急ぎ足でギルドに入り窓口の女性にギルドカードを提示した。そして昨日見かけた依頼を口頭で伝えれば準備完了である。


「こちらが貸し出し可能な街周辺の地図と、イークハーブの図解です。採集量に応じて報酬額が変わりますがイークハーブの近くにはよく似た植物が自生してまして新人さんがよく間違えて採ってきてしまうのでご注意ください。スモールボアの目撃情報も最近増えてますのでそちらも十分にお気を付けを」


「分かりました、では行ってきます」


窓口の女性からカードを受け取りそそくさと出発する……宿屋でもギルドまでのほんのわずかな距離でさえカルミアは自分に向けられる視線に気まずさを感じていた。


(さっさと顔を隠す方法を手に入れなきゃ)


その為にもイークハーブを大量に採集しなければならない。

朝食後の街はどこも活気に満ちている……特に東門へと続く大通りは港町らしく市場が軒を連ね、生きの良い魚介類が並べられていた。

人通りこそ多いがその殆どは仕事へ向かう最中……だと思われる忙しなさでこちらに気を止める人はさほど居ないのが救いだった。

カルミアががっつり振った素早さ(AGI)で駆け抜けた為に気に止める暇もなく少女が通り過ぎただけに留まった事が大きいが。


カルミアは急ぎシーブリック東門へ辿り着くと門番にギルドカードを提示して街を出た。そのまま道なりに進むとすぐ目的の林がある。


(さて、イークハーブはっと……)


ギルドから借りてきた図解には葉裏のスジが青っぽいとイークハーブ、茎に近い部分が白みがかってると偽物だと書いてある。葉そのものはタンポポのそれに似ているようだ。形には特徴のあるハーブだが、いかんせんこの林の中は鬱蒼と似たような背丈の雑草が生えそろっていて非常に見つけにくい……という窓口の女性の説明は、ターゲットアイコンという神がかりなシステムのおかげで全く苦にならなかった。

探すつもりできょろきょろ見渡せば、アイコンが勝手に反応するのだから何の苦労もありはしない。せいぜい本物と偽物はターゲットアイコン様にも区別がつかないようで見つけたら裏を確認して採集する必要があるという程度だ。


ターゲットアイコンに導かれるままに次々と採集するのは良いが、問題は所持上限だ。ギルドから布袋を借りる事が出来たのである程度は運べるがその袋もさほど大きなものでは無い。


採集が順調すぎてあっという間に埋まりそうだと思った時、ふとステータスウィンドウの事を思い出した。

ゲームのような世界ならば……アレがあるかも知れないと。


(インベントリ!)


思いついた瞬間にステータスでは無いウィンドウが目の前に現れた。四角い枠がいくつも並ぶそのウィンドウは紛れもなくインベントリである。


(何で今まで気が付かなかったんだろ……)


存在は確認したが、次は使い方が問題である。試しにと採集したてのイークハーブをウィンドウに近付けてみたが無反応。


(うーん……こうじゃないのね)


次はウィンドウに向けて上から落としてみたが素通りして地面に落ちただけだった。


(もぅ入ってよぉ!)


落ちたハーブを拾い入ってと思った瞬間に持っていたはずのイークハーブが忽然と消える。ウィンドウの方にハーブのアイコンと、アイコンの右隅に"1"という数字が表示された。


(入った!)


その後、出すと念じれば手元に移り、入れると念じれば入る事が分かった。

所持上限の問題がひとまず解決したのでカルミアは更に採集を進めた。忠告されていたスモールボアとはまだ遭遇していない。


結局、太陽がほぼ真上に来る頃まで一切戦うことなく採集を終えると流石に喉の乾きと空腹感に襲われた。

手持ちの布袋には多分イークハーブが30本ほど、インベントリには60本入っている。布袋の分もインベントリに入れようか迷ったがサラもドグラもバッグから色々取り出していたのを見ている。インベントリから手元にいきなり取り出したら変な目で見られるかも知れない。ギルドに提出するには布袋に入った状態が望ましいだろうと考え、袋の分はそのまま持ち帰ることにした。


帰ろう……と思って辺りを見回して自分の大きな失態に気がついた。

ターゲットアイコンを追いかけてどんどん進んでしまった為に、完全に街の方角を見失ったのである。方位磁石などという便利な物は持っていない。いくら森と呼ばれるほど鬱蒼としてはいなくても、入り込んでしまえば見渡しなど効くはずもない。


(やばっ……帰り道が分かんない)


地図は有れど、方角を見失えばただの羊皮紙である。


(うーん……こんな時にマップが有れば……あ、マップ!)


思いたてば表示される新たなウィンドウ。とは言え、出てきたマップウィンドウには林であろう沢山の木のマークの中に自分と思われる青い丸がポツンと中央に有るだけだ。


(あぁぁ範囲せまっ!もっとこう広域を……)


そう考えた瞬間にマップウィンドウの表示範囲がグッと広くなった。自分の青い丸がやや小さくなったので広がったのは間違いない……が、それでも林の端を捉えるには至らなかった。

だがマップの端に自分とは別の青い丸を見つけた。


(多分人だよね……道聞いたら教えてくれるかな……)


自分と同じ依頼を受けた冒険者か、あるいは人ですら無い可能性も有る。前世で遊んだゲームのようにモンスターが赤い丸で表示されるとは限らない。


だがしかし……飲み物すら持ち歩いていない状態で歩き回るのは分が悪い。

意を決して唯一見えた青い丸に向かって歩く事にした。

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