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とりあえず冒険者になろう

――翌朝――


上半身を起こし欠伸と一緒に体を伸ばす。

まだ少し眠いがせっかく取り戻した健康体である、ベッドの上じゃ勿体ない……そんな感情に急かされ洗面所で顔を洗う。備え付けられていた布で拭き取っているとカチャリとドアノブの音が聞こえた。


「おぉカルミアちゃんやっと起きたのかい」

「あ、おはようございますサラさん」

「おっはよ!……ん~~」


朝の挨拶が終わった後、腕組をして私を上から下に舐め回すように観察したサラ。

偵察を得意とする彼女はタイトな黒い装備を身に纏っていて忍者を彷彿とさせるのだが、その恰好が必要以上に彼女の豊満な胸を強調している。紫色のショートボブに美麗な顔立ち、そしてナイスバディ。

そんなお姉さんにじと目で見つめられると無駄にドキドキするのはどうやら男性だけではないようだ。


「ほんと、よく無事だったね……」


冒険者としていくつも依頼をこなしてきた彼女は、盗賊団や悪人のアジトへの潜入経験も幾度も経験してきたのだと言う。そしてその都度私のように幽閉された女性達を見たり助けたりしてきたらしい。


私の場合はイケメン神様が落っことしていったわけだからあの牢屋を使っていた盗賊ともほとんど面識はないのだが……だがサラが見てきた捕らわれた女性達は皆ひどい仕打ちを受けて身も心も深く傷付いた状態が当たり前だった。

そんな説明をぽつぽつ挟みながら、サラは自身の右足にベルトで固定してある煙草サイズの小物入れを漁り……ドグラのウエストポーチ同様に不可能な質量の物体を取り出しては、昨晩サラが倒れるように寝ていたベッドの上に広げていた。


「これは……ちょっと長すぎか。こっちは……露出高すぎかなぁ」


その様子を見ているとどうやらサラの私物から私にいくつか服を見繕ってくれている様子なのだが……出すもの出すもの全てが寒色のピッチピチな服ばかりなのだ。


(……いや、それはマズイ!)


ピチピチな服を眺めながらふと気が付いたのだ、自分がブラをしていないという事に。今着ているワンピースは胸元に丁度レース編みのような柄が入っていて厚みがあるおかげで目立たないがサラの服は確実にやばい!いくらドグラから借りているマントがあるとはいえ私はそこまで痴女じゃない!


「うーんカルミアちゃんに合いそうなのが無いわねぇ」

「あ、あのっ!大丈夫ですから!ドグラさんのマントがありますしっ」


ただただ慌てる私。サラは仕方ないと諦めて服を小物入れに戻していきつつも


「街着いたらさ、服買ってあげるよ。それ一枚じゃ不便だろうし……おっといけない、宿の朝食時間ギリギリだね、食べるだろ?その為に起こしに来たの忘れてたよ」


もちろん食べますとも。

時間が無いと聞いて慌ててマントを羽織り部屋を出る。

宿の朝食はナンのようなピザ生地のようなパン系の主食に、サラダ的な野菜と何かの肉を焼いて塩を振ったもの。シンプル。


(っかぁ~~たまんなーい!)


ややかけすぎな塩っけがとてつもなく美味しく感じる。私のでっち上げ事情を聞いた宿屋の女亭主は焦らなくていいよと優しく声をかけてくれたが焦っているわけではない。それは食べ過ぎは良くないと知りつつもポテチを一袋食べきってしまうようなものだ。


「あぁ美味しかった……」


あっという間に平らげてしまった。ご馳走様でしたと女亭主にお礼を言うと「頑張りなよ」と見送られた。そういえば半分でっちあげだが一応被害者でしたっけね。両親との死別という点だけは嘘じゃないが、死んだのは両親ではなく私の方だ。


「おはようカルミア殿、これで皆揃ったな」


昨日使った砦の出口とは正反対の方角にもう一つの門があった。馬車で半日と距離こそあるが野生動物は殆ど居ない整備された道だと馬の手入れをしながらブライトが説明してくれた。

揃ったと言っていたがリッカの姿が見えない。砦兵らしい人物と話していたシューヒスがこちらに気づいて手を振っている。丁度良いのでリッカの事を聞いてみると


「あぁリッカの奴は元々この砦の中の教会に務めるシスターだからな」


今頃祈りの時間だろうと教えてくれた。よくよく見れば弓使いの男性も居ない。彼に至っては昨日の打ち上げでドグラに真っ先に潰されており名前すら聞いていなかった。ブライトが「そろそろ行こう」と言うので昨日と同じように馬車に乗りこんだ。


「……可哀想にユタカの奴、居ない事を気にすらされないとは」

「仕方ないさね、良いとこ見せようとドグラに挑んだまではいいけどあのざまじゃね」


シューヒスとサラのこんな会話は私の耳には届かなかった。


砦を後にした2台の馬車は港町シーブリックへの帰路を順調に進んでいた。道中……リッカが抜けた馬車の中では、私の今後についてというお題が大半を占めていた。鏡で発覚したこの「とんでも外見」はそこらの貴族に囲われるのは十二分に魅力的だという話からサラやブライトと繋がりのある貴族の世話になる……つまりは養女として安全に暮らす道を選ぶかと打診されたが、そんな気にはとてもならなかった。


「だとすりゃギルドに登録して冒険者として生きるか、ブライトのとこでヒーラーとして活躍するか……」


サラの呟きに身の振りを悩んだ……自衛隊もそれなりに魅力的だったが、せっかくの自由だ……更に言えばゲーマーの血が騒ぐのだ。


「冒険者に!」


よほど力んでしまったようで目の前のサラがきょとんとしている。


「いえっ……あの……理由はどうあれせっかくなら世界を見てみたいなって……」


苦しい……我ながら実に苦しい言い訳だ。

本音は自分のステータスが数値化されているこの世界にワクワクが止まらないだけなのだ。レベルが1のままじゃつまらない!レベル上げがしたい!


「そうかい、カルミアちゃん見かけによらず芯が強いんだね。わかった!冒険者になる為の手はずはお姉さんが手伝ってあげようじゃないか!」


こうしてシーブリックへ着いた後の行動日程をいくつかサラと打ち合わせをしているうちに昼になり、馬車を路肩に止めての休憩タイムとなった。


シーブリックと砦を結ぶ一本道は周囲を広大な草原で囲まれていた。

昼休憩の間にドグラから、この草原を人工的に作り先の砦を築くまではモンスターの襲撃が頻繁でこれほど安全に出歩ける場所ではなかったという歴史を聞くことが出来た。モンスターは森を住処にする事が多く、討伐と伐採に多くの犠牲を払いつつも人工的に森を減らすことでモンスターの活動範囲を減少させることが可能だという。そうして多大なる犠牲があったからこそ多くの馬車が行き交う今のこの道があるという話だ。


「その作戦が実行されたのは今から20年前だったかのぅ」


当時、シーブリックで幾度もモンスターの襲撃を受け消耗が激しかった自衛団へ入隊したばかりのブライトや、近郊の都市から作戦実行の応援部隊として派遣されたドグラは、その作戦が完了するまでのおよそ4年間を戦い続けた手練れだとサラが茶化してその話は終わった。


この世界の科学力はさほど進んではいないらしい。整備されているとはいえ所詮は砂利を踏み固めた道路と動物の皮を張っただけの荷台の腰掛…長く座っているとお尻が痛むのだがサラやブライト達は慣れているのか全く平気なようで一切話題に上がらないので流石にお尻が痛いからと休憩を要求するわけにもいかずじっと我慢するはめになった。


(VITに振ればこのダメージも防げる……?)


お尻の痛みに耐えて耐えて、ようやく港町シーブリックへ辿り着いたのはサラ曰く「お茶の時間」だそうだ。多分だがオヤツ時って事だろう。

シーブリック入り口にはブライトやシューヒスと同じ装飾の鎧を身に纏った門番が立っていて、馬車から降りた隊長の姿に気づき敬礼らしきポーズをとっている。


「隊長、任務ご苦労様であります!」

「ご苦労、今回の任務で救護者を一名連れている。身分を保証出来るものを持っていないので私を保証人にした救助者カードを発行してやってくれ」

「かしこまりました」


門番に名前を聞かれたので答えると、門に設置されている電車の券売機のような窓口で門番がタッチパネルのようなものを操作し、あっという間にクレジットカード程の大きさの白いカードを手渡された。


「こちらは街を出入りする際に必要になる身分カードの代わりになります。効果期限は10日です、切れる前にギルドカードや各職業カード、住民カード等に作り直してください。期限が切れてから作り直す際はこのカードと保証人の身分カードの提出が必要になります」


丁寧な説明を受けた後、サラ達の後に続きもう一人の門番へカードを見せて街へ入った。


港町シーブリックは潮の香り漂う綺麗な街だった。

建物は白い壁にオレンジ色の屋根が多く、ヨーロッパの爽やかなイメージがしっくりくる。ブライトはこの街では相当な人気者のようで、道行く人がブライトに気づいては挨拶をしたり会話をしたりと人望の厚さが窺える。

シーブリックのほぼ中心にある綺麗な彫刻の噴水に着いてブライト達自衛隊メンバーは隊本部に報告があると言って去った。


「さてと、冒険者になるにはギルドに登録してギルドカードを作る必要があるんだけど……」


その前にとサラが案内してくれたのは噴水から西へ進んだところにある小さな武具屋だった。


「少しは冒険者らしい恰好をしないと舐められるからね」


そう言って二~三点防具を選び始めた。甲の部分だけ金属が縫い付けられている革製の籠手は肘上と肘下をベルトで固定するタイプの軽い物、左肩から胸元を保護する為のショルダーガードらしき防具も革製。

グリーブも皮で膝や脛など要所を金属製のプレートで保護してある軽めのものを選んでくれたようだ。サラに言われるがまま身につけてみると白いワンピースと合わさって弓使いやシーフあたりの初期装備を思わせる組み合わせだ。AGI重視のステ振りをしたので見た目とマッチしてすっかり気に入ってしまった。


「うん、似合うじゃない」


サラも何故かご機嫌である。ここでふと支払いについて気になったので聞いてみると「出世払いでいいよ」とサラが言うのでありがたく甘えることにした。無一文だしね。


防具の次は武器を物色し始めたサラだが、防具の時とは違ってずいぶん悩んでいるようだ。聞けばヒーラーや魔法攻撃主体の人が使う杖は長さや形状によって特徴が違うらしく、本来は使用者の魔法スピードなどを考慮して選ぶらしいのだ。


「カルミアちゃんは演唱時間も短いし魔法スピードに至っては人知超えてるからねぇ」


そこまで言いますかサラお姉さま……。


「杖要らなそうだし、かといって重たい武器は扱いにくそうだから短剣でいいかね」


結果綺麗に湾曲したハルパー系の短剣を選んでくれたのでそれで良いと首を縦に振った。


そういうしている内にすっかり空は赤くなり街は夕方の喧騒を見せていた。買い物したのか木製の籠を持っている女性の姿が多い。お母さんの手伝いだろうか男の子が重そうに籠を持っている微笑ましい姿も見える。

それ以上にちらちらと此方を見てはやや驚いた顔をする人達が多い気がするのだが……平然と歩いているサラは気にならないのだろうか。

通りすがりにサラへ挨拶をしていく冒険者風な人達も多かったし、サラの知名度の高さが伺える。


「お腹減ったねぇ、ついでだから今日はギルドで食べていこうか」


サラの提案に乗って……乗るしかないわけだが。ともかくギルドへ歩を進めた。

ギルドは周囲の白壁とは外見が異なっており、木造建築のそれは西部劇によく出てきそうな酒場そっくりだった。

内装も丸テーブルにいくつか椅子がセットになっていて何組か置かれている。カウンターに立っているのがカウボーイハットの髭老人じゃないのが残念なくらいまさに西部劇だった。

実際は受付窓がいくつか設けられていて、それぞれ身なりの整った女性が座って何やら作業をしているようだ。カウンターの右手に2階へ続く階段があり、ロフトの様な2階にもテーブルと椅子が置かれている。時間だからか、食事を摂っている冒険者で上の階がにぎやかだ。先に登録を済ませるというので窓口へ向かった。

ギルドに入った瞬間から、賑やかな中にこちらを見てざわついているテーブルがいくつかある様だがそれをサラは気にする素振りも見せない。


「ようこそシーブリックギルドセンターへ……ってサラさんでしたか、お帰りなさい」


カウンターに背を向けて書類の類を整理していたセミロングの黒髪な受付の女性はカウンターに近づく人の気配に気づき振り返ってサラに会釈をする。


「たっだいまぁ」


なんとも気楽な返事をしたサラを見て女性はカウンターの上にある小さな木箱の中を探ると、羊皮紙のような一枚の紙を取り出し首をかしげた。


「遠征報酬はまだ通達されていませんが……?」

「ん、知ってる。面白い子見つけたんで連れてきたのさ」

「新人さんですか、サラさんが連れてくるなんてよっぽどなんですね」


サラの後ろに何となく隠れていたが、私の話題が出たようなのですっとサラの横に出る。

その瞬間に女性が驚きと共に目をパチクリさせていたが、今朝鏡で見た自分の姿を思い出してその驚きの理由が分かった。

とりあえず会釈をしておいたが……よっぽどってどういう意味でしょうか?


「では身分カードの提出をお願いします」


そう言われ白いカードを窓口へ置いた。


「少々お待ちください……お名前はカルミアさん。保証人はブライトさんっ?!」


女性が出されたカードを手に取り、女性の手元にあるぼんやりと光る四角い装置の上に置かれる。するとカードの上にA4サイズのスクリーンが現れてそれを確認した女性はまたしても目をパチクリさせた。

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった事にハッと気づいてコホンと軽く咳払いをすると


「失礼しました。ブライト隊長の保証も得ているとは……身分確認は出来ましたので左手のドアから冒険者登録審査室へお進みください。軽い技能試験を受けていただいてランク測定を行います」


促されるままサラと窓口の左並びにある木製のドアを開けて通路を奥へ進んで行く。


サラとカルミアを見送った女性はふぅ……と長めのため息を零した。


「あんな可愛い娘がブライト隊長の後ろ盾を受けて冒険者に……何か起きそうな気がするわね……」


独り言を呟き、技能試験の為にカルミアの白いカードを担当者へ持っていく為に席を立った。


通路を少し進んだところで外へ出るドアを通り木の柵で囲われた空き地のような場所で試験の開始を待つ。

空き地の奥には円が描かれた的のような板が幾つか置いてある。


(技能試験って言うくらいだから弓ならあれを狙うのかな)


そんな事を考えていると、サラと共に通ったドアとは別のドアが開き……茶色いローブを着た気の弱そうな男性と、正反対にシューヒスと同じような防具を身にまとっているが身長が2mほども有りそうななんともガタイの良い男性が出てきた。


「あら……ダッカが試験管なの?珍しいわねぇ」


サラが声を掛けるとガタイの良い方がニヤリと笑う。


「おう!保証人がブライトの野郎だって聞いたからな!」


どんな奴が来たのか見てみたくなったと説明したダッカが、サラからカルミアへと視線を移す。


(……うわぁ)


ダッカと目が合った瞬間に、森の中でクマと遭遇したらこんな感じかなと思ってしまった。クマと遭遇した経験など勿論無いのだが、ダッカの巨体はそれほどの迫力を有しているのだ。


「こりゃ随分と綺麗な嬢ちゃんだな!その容姿なら何処ぞの貴族にでも……」

「それはもうカルミアちゃんには言ったよ。でも本人は冒険者志望らしくてね……」


サラが若干呆れた声でダッカの言葉を遮る。

養子になる道もあると、そう進言されてもゲーマーとしてここに来る事を選んだのだ。


「ほぅ……おもしれぇ嬢ちゃんだな!よしっ……んじゃ早速技能試験始めるか!」


そうニヤリと笑った。


「初めまして、カルミアさんの審査を担当しますトリーと申します」


ダッカの横に居た気弱そうなだけじゃなく影まで薄いらしいトリーが軽く会釈をしてバインダーの様なものに目を通しながら説明を始めた。


「まずはカルミアさんの属性と魔力値を測定しますので……」


いそいそと腰に結っていた皮袋の中から六角柱の物体を取り出す。

大きさは500mlペットボトルくらいで神社等にあるおみくじの箱の様だが、白くツルっとしていて側面には模様なのか文字なのかよく分からない柄が掘られている。


どう使うのかよく分からない……そんな顔をしていたのだろう。

サラが手の平を上に出すようにジェスチャーで促すのでその通りに手を出してみる。

トリーが六角柱をカルミアの手の平に乗せると、六角柱の下の方から光出す。

それは某隠し芸番組の審査発表のランプの様にカルミアには見えた。

カルミアの手元からどんどん六角柱の上へ光が登っていく……光は白から黄色、赤、青、緑と登る過程でグラデーションが掛かり、六角柱の天辺でまた白に戻った。


(綺麗だなぁ)


カルミアはそうとしか思わなかったが、六角柱を見ていたダッカとトリー、そしてサラは驚愕していた。


「……な……なんだこれ」


思わず声が出たのはダッカ。ダッカの声でカルミアは周りの3人が驚愕している事にようやく気がついた。


「こ……これは、いや……けどアーティファクトが壊れる訳は……」


トリーは眉間に皺を寄せながらブツブツと呟いている。

サラは目の前の光景に驚きを通り越してとうとう笑い出してしまった。


「あ……あは、あははははっ!カルミアちゃん!あんた……ふふふ……凄すぎ」


どうやらツボにはまったようだ。ケラケラと腹を抱えて笑い、堪えようとしてもぷぷぷと漏れてしまう。


「おいトリー!さっさと判定しろ何だこれは!」


ああでもないこうでもないとブツブツ呟いていたトリーの肩をダッカがガシッと掴む。そのまま頭から喰われそうだと思ったのはカルミアだけだが。


「えっあっ……その……」


ダッカに掴まれて我に返ったトリーは自身を落ち着ける為なのか深呼吸をしてカルミアが持ったままの六角柱を見つめる。


「まず属性ですが……このような色は初めてです……正直どう判断して良いか前例が無いのですが、当てはめるとしたら"全属性"と言うしか有りません」

「"全属性"……だと?」


トリーの判定に複雑な表情を見せるダッカ。

だがダッカにはトリーの判定を否定する理由が見つからない。


人間族が生まれながらに持ちうる五大属性は

癒しと浄化を司る"聖属性"

大地と呼応する"地属性"

全てを灰とする"火属性"

潤いと暴奪を齎す"水属性"

自由を象徴する"風属性"


「属性を色で表すのがこのアーティファクトの能力ですが……基本的に人間は一属性しか持ちません。ごく稀に二属性を持つ奇才が現れますが、それでもアーティファクトで測ればどちらかに大きく偏るものだそうです」


二色でも"奇才"なのだから五色も出れば非常事態に等しかった。


「はぁ、はぁ……あぁお腹痛い」


ようやく笑いが治まったサラが、状況を飲み込めずオロオロしていたカルミアの左肩を叩く。


「サラさん……これって……」


肩を叩かれ振り向くと、涙を拭きながらにこやかな表情のサラに少しほっとした。


「カルミアちゃんのヒール見た時はそりゃ驚いたけどさ、これ見りゃお姉さん納得だわ」


カルミアの手の上で光る六角柱を掴むと持ち上げる。そして途端に光を失った六角柱を今度はサラ自身の手の平に乗せたのだ。

サラの測定を始めた六角柱は緑色の光を放ち出した……のだが、その光は六角柱の四割辺りで止まってしまった。


「えっ?」

「分かったかい?これでもここらの冒険者の中じゃ良い感じに光ってる方なんだよ」


自分の時は光で充ちた六角柱の器がそこまでしか輝かない事に驚いてサラのステータスが気になりターゲットアイコンをサラへ意識した。


〖サラ〗

種族:人間/女性 29歳

ジョブ:シーフ/風魔道士… Lv34


HP:209/209

MP:43/43

STR:23

VIT:21

AGI:40

INT:21

DEX:38

LUK:29


「まぁ光ったところで生かせなきゃ意味無いんだけどねぇ」


呆れたように肩を窄めるサラ。


「サラ殿の仰る通り、どれほど光るかは素質が大きく影響します………あくまで素質として持っているというだけなので、持ち主の性格や成長環境によってはほとんど生かされない場合も十分に有り得ます」


特に魔法に関しては素質があっても、魔力のコントロールが苦手であったり、発動させるプロセスが掴めなかったりすると暴発や不発といった結果になってしまうのだとトリーが説明を続けた。


「ま、いわゆる魔法オンチって奴さ。あんなヒールを撃てるカルミアちゃんならその辺は全く心配なさそうだけどね」


顎に手を当てながらサラは自身が持っていた六角柱をカルミアへ返す。

先程と同じく五色に満ちた六角柱を見ながら、バインダーに挟んだ用紙に記入しつつトリーの分析が始まった。


「初めと終わりが白く光っています、面積的に言えば聖属性が最も適合率の高い属性と言えそうです。ですが他の四属性も……いえ、どの属性をとっても今活躍してる現役の魔術師と比べても遜色ない面積を持っていますから、術式の構築センス次第では間違いなく王宮に紹介状を書くべき逸材でしょうな……」


王宮と聞いて王様の護衛か何かだと想定しても、カルミアにはあまり魅力的な話では無い。


「王宮かぁ、なんかつまらなそう……」


トリーの分析を聞いてカルミアが抱いた感想がそれだった。

つまらなそうという発言に目を丸くしたダッカが、ニカッと笑う。


「つまらなそうか、ほんとにおもしれぇ嬢ちゃんだ!気に入ったぜ……おいトリー、測定はもう十分だろ?さっさと試験進めようや」

「え、あ……はい……そうですね、では次に実技試験を始めます。カルミアさんの最も得意な武器や魔法での実技測定ですので何を使うかは自己申告となります……どうなさいますか?」


そう聞かれて少々悩んだ……ハルパー系の短剣は所有しているのでサラから目で盗んだスキルは使えるはずだし、バックアタック辺りを習得するのも手ではあるが……ここは素直にブライト達を驚かせた支援魔法を見せた方が評価は高いだろう。AGIにはかなり振ってあるがSTRはまだ低くて攻撃力に自信が持てない。そもそもまだ一度も使っていないスキルをいきなり発動する事に不安もある。


「ヘイストっていう支援魔法でも良いですか?」


六角柱をトリーへ返しつつ返答すると、ダッカとトリーは視線を合わせて頷きあった。

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