第零章 仮面の戦士
天気は雨。気分は最悪。
足が痛いし、右腕は肘から先の感覚がない。
後ろには倒れた仲間。
周囲には百を下らない数のゴブリンが倒れているが、それを上回る規模で展開するのは、
「――」
雄叫びを放ち、勝利の勝鬨を共有する無数のハイゴブリンたちだ。
青の肌の上位体。突然変異が繁殖を繰り返した結果であろうその異様は、一傭兵団が戦ってどうにかなる規模ではない。
だが、
「……仲間は倒れている。町からは数百メートル。……間には丘があり、強い雨足は数十メートル先を闇に閉ざしている」
シチュエーションとしては絶好だ。
まさに、おあつらえ向きの状況。
だが、
「……思ったより気分のいいものでもないな」
言いながら俺は、懐から二十センチほどのサイズの機械を取り出した。
掌で掴めるほどのそれを、俺は腰に押し当てる。
ベルトが自動で腰に回る音は雨の中に消え、
「……実戦は初。訓練は積んできたつもりだけど」
追加で取り出したのは、十五センチほどの長さを持った鉄の棒だ。
じゃらりとキーストッカーに掛かるものが十数本。
その中の三本を手に取り、腰の機械に横から挿入する。
右から一本を。
すると、電子音が一つ。
左から一本を。
また電子音が一つ。
そしてまた右から一本を入れると、
『――』
先の二つとは違う、まるで祭の囃子のようなリズミカルな音が続いた。
それは俺の意思を確かめるように鳴りやまず、一定の音楽を奏で終わると最初に戻ってループした。
俺は感覚のない右腕を無理やりファイティングポーズのように掲げ、
「――変」
左腕をベルトに払い、表面にあるスイッチを弾いた。
扉が開く。
三つの金属棒が閂を外し、
「――身」
雨にまみれる視界が、奥からカーテンを引くようにしてクリアになった。