ツダ男さんが感動
賢者がカートを押して皆の前に持ってくる。遊び人はその横に大理石で天板を覆ったテーブルを置いた。
カートの上にはいくつかの茶碗蒸しのような、蓋つきの器に分けられたなんらかの物質とピンセット…
その下にはコトコト動く壺の上にガラス板と重りが置かれている。
「では実演と行こうか」革の手袋をはめ直した賢者が、まず手にしたのは
【瘴気の結晶が入った器】
光の当たり方によってキラキラと虹色に輝く宝石の原石の如き美しい石のようなもの。
しかしその正体は名前負けしない代物で、人間の皮膚が触れると触れた部分が爛れる
さらに、中々治らない。
神官系がよく使う浄化の術。それを施すと普通に自然治癒する。
浄化の術は、そこそこの範囲内にしか効果はないが、
自然の理に反する存在や悪意あるものを正しい流れに戻す術。
魔物…獣が何らかの要因で魔に変異したものや、元から魔と言う自然の摂理に反するものとして生まれた存在、呪いや怨念、魔的要素によって発生するアンデッド…
それらに対抗する手段として一際効果的に作用する浄化の術。
そこから導き出される事象だけをみるなら、
瘴気は自然の理に反するものと定義づけられるのかもしれない。
大理石のテーブルの上に乗せた壺から出てきた薄水色のスライムに、
瘴気の結晶を与えてみる。スライムも魔物の一種と考えられているため、
自然の理に反してそう。なら瘴気も栄養になるのではないかと言う憶測だ。
スライムの前に結晶をコトリと置く。
プイっと音がしそうなくらい顔を背ける。
美味しそうに見えるようにピンセットでつまんでチラつかせても、
プイっ!
「ほう…、」
瘴気の結晶を容器に戻し、フライドチキンの骨を与えてみる。
シュッ!パクり。もちゅもちゅもちゅ、しゅわわわ。
フライドチキンの骨は跡形もなく分解され、スライムは心なしか満足そうである。
「ふむ…。」
賢者が振り返ると男5人は興味深げな表情で頷いている。
薄水色のスライムを壺に戻し、別な壺から薄紫色のスライムを取り出す。
大理石のテーブルの上に置き、撫でるとプリンプリンと喜んでいるかの様に体を揺らした。
このスライムはある事情で核とダンジョンコアが融合してしまった個体だ。
そして、容器から瘴気の結晶をピンセットで取り出し、側に置く。
ツルルーパクン。
「食べた!!!」一同が驚きの声を上げる。
「瘴気の結晶を、アト5カケラくらいあげてみよう。」
コトリコトリ、結晶を並べてみる。
パクパクもちゅもちゅもちゅ、パクパクもちゅもちゅもちゅ…
「可愛いな。」
「思ったより愛嬌がある。」
「ああ、その通りだ。だが、ここからの経過をよく見て欲しい。」
薄紫色のスライムは瘴気の結晶を摂取した。
通常、スライムは、食物を摂取すると体内の不思議な組織液で食物を溶かして分解し、
核に吸収させ栄養とする。
薄紫色のスライムも摂り入れた結晶を溶かす。そこまでは普通だが、
組織液の一部が渦のように回転し、溶けた瘴気を丸めて再び再結晶化する。
ぷりっ コロコロコロ
----!!!スライムがうん◯した!?
一同が戦慄する。
「安心しろ、瘴気の結晶とそっくりだが、毒素の様なものが抜けて、
ただのビー玉みたいな物に置換されたんだ。
素手で触っても、皮膚が爛れたりする事もない。」
橙色の、ほのかに発光する透き通った神秘的な球…
一人一人手にとって、眺めたり、光にかざしたりして
「おお…」と感嘆の声を上げる。
「なあ、遊び人、ダンジョンってさ、どうやって成長するんだったか。」
「ダンジョンコアをくれた、疲れた顔した元ダンジョンマスターの男から聞いた話では
…長えな、仮称として、…ツダ男でいいか、
ツダ男曰く、ダンジョンに来る人間が多ければ多い方がいい。
コアは言語を有する者の、思考、感情エネルギー(なんだろうそれ)を求めている。
…とか言ってたな。」
「…、お前がいくつもの大きいダンジョンの近くに、自分のダンジョンを配置したのは
その理由からだろ?」
「まあ。人が集まるいい立地がたまたま空いてたから、勿体ないと思ってな。
ツダ男も結構な頻度で来るぜ。清潔で防音、防犯に優れたカプセルホテルと
24時間やってるコンビニが気に入ったみたいだった。
これこそ、ダンジョンコアの真実なる使い道だったのだ…とか言って泣いてたから
分かってんなこいつ…と感心したので、銭湯の割引券あげた。」
「ツダ男、マジ疲れてんな…、お前も大概だが…そこは置いておいて、
瘴気の正体、分かった気がしないか?」
ナ、ナンダッテーーーー