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ウケモチとウズメ、桃弓と葦矢を作る

 女神ウズメが意識を取り戻すと、目の前に広大な青い海が広がっていた。

 遠くに目を凝らしてみるが、白い煙のようなものに覆われていて見通す事ができない。


(あれ……ここは……? どこだっけ)


 一瞬、別の世界にでも迷い込んでしまったのかとウズメは思った。

 だが海の美しさとは裏腹に、彼女の倒れていた地面は相変わらずの灰色であり、ここが黄泉の国の一部だと気づかされる。


(そっか……オオゲツちゃんとタヂカラオが泥に沈んで、あたしとウケモチくんも……完全に、みんなとはぐれちゃったのか……)


 皆と歩いている最中、地面が熱を帯び泥化して足を取られ……そのまま飲み込まれて意識を失ってしまったらしい。

 傍らには闇を纏った小さな神ウケモチが、同じく意識を失ったまま倒れていた。

 幸い身体に傷も火傷も見当たらなかったが……吹き荒ぶ風は冷たく、はぐれた他の皆の行方も知れず、心細い。


 ふとウズメは、ウケモチが大事に抱えている桃の木の枝に気づいた。

 桃木の神オオカムズミより受け取った時より、幾らか加工が施されており、流線型の美しい形になっている。


(いつの間にここまで……あたし達が休息している間にもせっせと木を削ってたんだ)


 ここまで形が整っていれば、ウズメにも彼が何を作ろうとしているのか、見当がついた。


「起きて、ウケモチくん……大丈夫? しっかりして」


 ウズメはウケモチを起こそうと彼に近寄り、肩を叩いてみる。

 いきなり頭を揺さぶったりするのは危険だと、大陸で交流のあった医術の神から聞いた事があったからだ。

 口元に手を当てると、呼吸をしているのが分かる。幸い深刻な事態ではなかったらしい。すうすうと寝息を立てている。


(疲れちゃったのね。近くに敵の気配もないし、しばらく寝かせてあげよっか)


 そう思い立ったウズメは、自分の持っていた比礼(ひれ)をウケモチの身体にそっと掛けた。少々面積は足りないが、腹を冷やさない程度に役立てばいい。


(後は……そうね)


 ふと地面に目をやると、周囲には大量の(あし)が生えており――ウズメはある事を思いついた。


**********


 ウケモチはうっすらと目を開けた。

 がば、と起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡す。


「あ、ウケモチくん。目が覚めたのね!」


 ウズメは喜んだが、ウケモチの表情は優れなかった。

 いつも傍に寄り添っていたオオゲツヒメがいないのだ。


「……ウケモチくん。探してみたけど、ここにはあたし達しかいないみたい」


 無情な事実を告げられ、ウケモチは俯いてしまう。

 同時に彼から発せられる、陰の気が強まったのをウズメは感じた。


(薄々分かってはいたけど……オオゲツヒメちゃん以外の神には、完全に心を開いてはいないのね)


 だがそれは、お互い様だった。

 ウズメだけでなく、旅の一行は余りウケモチを顧みなかった。オオゲツヒメに懐いているのをいい事に、彼女に世話を任せっきりだったのだ。


意思疎通(コミュニケーション)を怠ってたのは、あたしにも非がある。

 でもだからって、尻込みなんてしてられない! ここでウケモチくんと協力できなきゃ、二柱とも共倒れだわ。

 それに――この子だって、きっと心細いハズ)


「ウケモチくん。あたしもきみと同じ気持ちよ。オオゲツヒメちゃんや、みんなを探し出したい。

 だからあたし――ウケモチくんの『武器』を作る事に、協力しようと思ったの」


 そう言ってウズメは、ウケモチが眠っている間に採集してきた大量の葦を取り出した。

 ウケモチは怪訝そうにそれらを眺めると……先端が削られている。


「葦を材料に作った『矢』よ。

 ウケモチくんの作ろうとしている『弓』に、ぴったりなんじゃないかな」


 彼女の意図を把握したらしく、ウケモチは加工した桃の枝――「弓」に、ウズメが作った葦の「矢」をつがえた。

 ゆっくりと引き絞る。ぴいん、と音がして勢いよく矢が飛んだ。使い心地が良かったらしく、ウケモチの顔に笑みが浮かんだ。


「よかった! 気に入ってもらえて」


 満面の笑みで喜ぶ舞踏の女神に対し、ウケモチは気恥ずかしそうにしていたが……ぶっきらぼうに頷くと、彼女が作った葦矢を全て回収した。贈り物自体は受け入れてくれたようだ。


(まだ若干距離は感じるけど……今はこれでいっか)


 かくしてウズメとウケモチは、分断された仲間を探すために一緒に歩き出すのだった。



(幕間2 了)

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