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ツクヨミの真意★

 その後タヂカラオとスサノオは、高天原(タカマガハラ)の警護の目を盗んで脱出した。

 雷神タケミカヅチが守護している割には、いやにあっさりと脱け出せた所を見ると……オモイカネと示し合わせ、織り込み済みの話だったのだろう。


「そうだスサノオ。餞別(せんべつ)代わりと言っちゃ何だが……これをやるよ」


 高天原(タカマガハラ)脱出後、タヂカラオが渡してきたのは、色鮮やかな(くし)十拳剣(とつかつるぎ)であった。


「この櫛、もしかして……」

「ヒメサマのだよ。天岩屋(アマノイワヤ)に運び込む時に……黙って失敬してきた。

 お守りとしちゃ丁度いいだろ。ひょっとしたら、黄泉(ヨミ)の国でヒメサマの魂を探す時に、役に立つかもしれねえ」


 そう言われれば、拒む理由は無い。

 スサノオは素直に、アマテラスが身に着けていた櫛を受け取り……頭に差した。


「はっはっは。知ってるかスサノオ? 櫛の受け渡しってなァ、夫婦(めおと)になる事を受諾した証なんだぜ」

「ぶッ……何だよそれ! じゃあオレは、タヂカラオと夫婦になるって事なのか!?」


 スサノオの素っ頓狂な声に、タヂカラオは笑いが止まらなかった。


「ンな訳ねえだろ。冗談だよ! 第一その櫛はヒメサマの物なんだし。

 ま、スサノオも将来、好きな女神(おんな)が出来た時にやってみりゃいいさ。またひとつ賢くなったな!」


 笑いながらバンバンとスサノオの背中を叩く怪力神。手加減しているのかもしれないが、とても痛い。


「それから……お前さんの剣は、天安川(アメノヤスノカワ)誓約(うけい)の際に噛み砕かれちまったろ?」

「でもこれ、タヂカラオのだろ? いいのかよ?」

「問題ねえ。俺にはこの力瘤(ちからこぶ)と拳があるからな!」


 ニッと笑みを浮かべ、逞しく膨れ上がった上腕二頭筋を見せつける。確かに下手な武器より強力そうだ。

 スサノオはタヂカラオの剣も有難く受け取る事にした。


**********


 黄泉(ヨミ)の国に向かう道中、禍津神(マガツカミ)らに襲われていたオオゲツヒメを助け、舞神ウズメと出会い、小さな神ウケモチも同行する事になった。

 もう間もなく出雲国(いずものくに)(註:島根県)に入る。黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)はもうすぐだ。


(そろそろ到着……か。宜しく頼むぜ、ツクヨミ)


 スサノオは、己の肉体の内側に潜む兄――月の神ツクヨミに呼びかけた。

 しばらく押し黙っていたツクヨミだったが、やがて抑揚のない声で()いてきた。


『……私を疑わないのか? スサノオ。

 私は母上(イザナミ)と共謀し、高天原(タカマガハラ)でお前を()めたも同然なのだぞ?』


(今更何言ってんだよ。姉上が襲われた時、最後の最後でオレが助けに行く事を止めなかった。

 それにオレが身動き取れなくなった時だって。密かに神力を使って、姉上の肉体を助けてたじゃねーか。気づいてないと思ったのか?)


 機屋(はたや)の戦いで、雷神の放った糸はアマテラスに届かなかった。

 ツクヨミが「時」を操り、彼女を守った事は疑いようがない。


(ツクヨミは姉上を嫌ってたようだけど……いざとなったら、見捨てずに助けてくれた。

 それだけで信じるには十分だ)


 スサノオの素直な感情が気恥ずかしいのか、ツクヨミは不本意そうに答えた。


『勘違いするなスサノオ。私は今でもアマテラスの事は嫌いだ。

 私は光差す昼の間は目が見えぬ。光も、暖かさも、昼に動き回る生き物も――全て気に入らん。

 だから母上の誘いに乗った。世界が闇に包まれれば、さぞかし私にとって生き易くなるだろうと、思ったからだ』


 しかし……いざイザナミの思惑通りに事が運んだ結果は、ツクヨミの想像していたものとは違っていた。

 昼夜問わず空を覆い尽くす暗雲は、ツクヨミの力の源たる月の光すらも遮った。


『……ふと、思ったんだよ。

 確かにこの世は、私にとって生き辛い。好ましくない事も沢山ある。

 だがそれでも、全てが無くなってしまえば――寂しい。そう……思ったんだ』


 「寂しい」。突き詰めてしまえば、ツクヨミの真意はごく単純だった。

 スサノオはそれ以上、何も言わず――旅の仲間と共に歩き続けた。



(幕間・了)

* おまけ *


食物の女神オオゲツヒメと、小さき闇の神ウケモチを描きました。

挿絵(By みてみん)

天安川(アメノヤスノカワ)にて完全武装したアマテラスを描きました。

挿絵(By みてみん)

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