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十一.暗雲の下、機屋(はたや)に馬が投げ込まれる★

グロテスクな描写があります。注意!

 その日、高天原(タカマガハラ)の空は陰っていた。

 鈍色の重苦しい雲が漂い、明け方にも関わらず辺りは暗い。


 あたかも陰鬱なアマテラスの気分を映し出しているかのよう。

 目覚めても疲労は取れず、足取りも重かったが――アマテラスは起き上がった。


 今日はアマテラスの機屋(はたや)にて、別天神(コトアマツカミ)らに奉納する御衣(おんぞ)が完成する日だ。

 別天神(コトアマツカミ)に捧げる前に、アマテラス自ら袖を通し、神事を執り行う必要がある。欠席する訳にはいかなかった。


**********


 機屋(はたや)の中から、独特の機械音がする。

 アマテラスに仕える女神たちが織り機を用い、白く清らかな御衣(おんぞ)を仕立てているのだ。


 そして機屋(はたや)の天井には――スサノオがいた。斑模様の不健康そうな馬を抱えている。

 もともとこの馬は、ある天津神(アマツカミ)の所有物であったが、スサノオがイザナミの命で盗み出したものだ。

 言いつけ通り高天原(タカマガハラ)の外に放し、しばらくして戻ってきたが……明らかに以前と様子が違う。盗む前には無かった筈の(けが)れの臭いが微かにする。


『そろそろアマテラスが機屋(はたや)に来る頃だ。やれ、スサノオ』


 スサノオの内に潜む兄・ツクヨミが命じると――スサノオは顔をしかめながらも、抱えた馬を持ち上げた。

 そして勢いをつけ、ひと思いに茅葺(かやぶき)の屋根へ叩きつけた!


 スサノオの腕力と馬の体重が合わさり、機屋(はたや)の屋根はあっけなく壊れ、大穴が空く。

 いきなり轟音と共に馬が放り込まれたのだ。中にいる女神たちは混乱(パニック)を起こし、悲鳴を上げた。


(クソッ、中はどうなってやがる……? 土埃が酷すぎて見えやしねえ)


 スサノオは目を凝らしたが、穴から機屋(はたや)の様子ははっきりと見えない。

 実はこの時、視界を妨げていたのは埃だけではなかった。馬の中に潜んでいた「(けが)れ」が、黒い煙のような瘴気を噴出させていたのである。


**********


 機織りに携わっていた女神たちの大半は、この騒動で恐れをなして機屋(はたや)から逃げ出していたが。

 運悪く足を怪我してしまった女神が一柱だけ逃げ遅れ、恐るべき光景を垣間見ていた。


 斑模様の馬から凄まじい量の黒い(けが)れがとめどなく噴き出し、不気味な悪神たちが顔を覗かせていたのである。


「ひッ……ひいいッ……あな恐ろしや、おぞましや」


 恐怖した女神は這ってでも逃れようとしたが、現れた四柱の神々に見咎められ、たちまち追いつかれてしまった。


「見ィィィたなァァァ?」

 四柱のうち、百足(ムカデ)(かお)をした悪神が、舌なめずりをして女神の髪を掴んだ。

「生かしてはおけぬなァ!」


 百足(ムカデ)貌の神は、壊れた織り機から()(註:織物に使うシャトル)を取り出し、無造作に女神の女陰(ほと)目がけて突き刺した!

 哀れな女神は断末魔の悲鳴を上げる暇すらなく、びくん、と痙攣して大量の血を流し――事切れてしまった。


「――何をしておる、拆雷(サクイカヅチ)

 炎を纏った蛇の貌をした悪神が、非難がましい声を上げた。


「知れた事よ火雷(ホノイカズチ)。我らの姿を見られたのだ、殺すしかあるまい?」

 拆雷(サクイカヅチ)と呼ばれた百足(ムカデ)貌の神は、(たの)しげに言った。


「他に手はなかったのか、と聞いておるのだ。下劣な手を使いおって」

「仕方あるまい? 我らの存在を隠す以上、(イカズチ)を使う訳にもいくまいて」


 まったく悪びれず肩をすくめる拆雷(サクイカヅチ)

 彼らはその名が示す通り雷神であり――黄泉(ヨミ)に住まう穢れし神々だった。

 高天原(タカマガハラ)へと侵入するため、病を得た馬の中に潜り込み、臓腑を平らげて身を隠していたのである。


 傍を見やれば、でっぷり太った黒光りする巨体を持つ(ワニ)貌の雷神・黒雷(クロイカズチ)が、死した馬の皮を逆剥ぎにして貪り喰らっている。

 見るもおぞましき光景に、ますます(けが)れの瘴気は濃くなり……機屋(はたや)全体が黒々とした煙に覆われてしまった。


 そんな折、騒ぎを聞きつけたアマテラスが姿を見せ――中を覗き込んで絶句した。

ショッキングなシーンが続きますが、以前描いたアマテラスを色塗りしたので御口直しに掲載しておきますね。

挿絵(By みてみん)

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