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七.アマテラスを止めろ!・中編

 スサノオはタヂカラオの言葉に一瞬納得しかけたが……すぐに疑問符を浮かべた。


「騒動を……姉上を止めてくれる、っていうのか?

 じゃあなんで、姉上の方に直接行かないんだよ?」


 タヂカラオの名は、スサノオとて聞いた事がある。

 高天原(タカマガハラ)の「力」の象徴であり、アマテラスの護衛役(ボディガード)を務める神として知られる。


 スサノオの問いに、怪力の神は痛い所を突かれた風な、困った顔をした。


「元々ヒメサマは、天津神(アマツカミ)たち大多数の意見を押し切って、自ら交渉しに行くと買って出たんだ。

 タケミカヅチのような本当に力ある軍神に迎え撃たせたら、お前に大怪我させちまうとでも思ったんだろう」


 タヂカラオはアマテラスの事を「ヒメサマ」と呼ぶらしい。

 それはさておき、彼の説明ではこれまでの事が全く腑に落ちない。


「その割には、姉上の攻撃は容赦なさすぎる気がするんだが……?」

「……あー。それは、だな……あれでもヒメサマは、お前さんを思いやってる証拠なんだ。

 一応あの矢も……威嚇(いかく)射撃のつもりだったみたいだな」


「ちょっと待て! アレが威嚇射撃ィ!?

 さっきから正確無比にオレの身体狙ってきてるじゃねえか!

 カスリでもしたら大火傷どころか四肢が吹っ飛ぶ威力だし!」

「仕方ないだろう……高天原(タカマガハラ)の会議の結果、ヒメサマが直接交渉する事は認められたものの。

 万一の事があってはならないと、高天原(ウチ)秘伝の武装で身を守るよう決まったんだ。

 んで、その……ヒメサマは何しろ、戦場に出るなんて今まで無かったし、当然弓矢を扱った事なんてない。

 つまり、矢の狙いが正確なのは……ヒメサマ的にはお前を無傷で捕える事を考えた結果って訳だな」


 とんでもない話であった。弟を傷つけない為の配慮が、こうも裏目に出てしまうとは。

 アマテラスは曲がりなりにも三貴子が一柱。誰よりも優れた神力を保有している。狙いの定まらない必殺兵器ほど恐ろしいモノはない。


『なるほど。道理でアマテラスの周りに、護衛も兵もいない訳だ。

 彼女の攻撃にうっかり巻き込まれたら、遺体すら残らんだろうしな』


 くっくっ、と含み笑いをしながらツクヨミが小さく呟いた。

 スサノオは苛立った。自分と肉体を共有している以上、ツクヨミだって矢面に立たされている窮地だというのに、まるで他人事だ。


「とにかくスサノオ。何の目的で高天原(タカマガハラ)まで来たかは知らねえが……ここは大人しく、引き返しちゃくれねえか?

 このまま戦いが長引けば――天安川(アメノヤスノカワ)の地形が変わっちまう」


 アマテラスは凄まじい数の矢を筒に入れている。「古事記」によれば、背中には一千本。両の腰にはそれぞれ五百本ずつ。スサノオが生きている内に矢が尽きる可能性はなきに等しい。

 スサノオが返答に窮していると――内から、凛とした声が響き渡った。


『せっかくの申し出だが、聞き入れる訳にはいかんな。

 我々には使命がある。それを成し遂げる為には高天原(タカマガハラ)に入らねばならん』

「……ツクヨミ……!」


 スサノオの奇妙な様子に、タヂカラオもようやく異常に気づいた。


「何だ、その声は……『我々』って、どういう事だ?」

「あー実は……オレの身体の中には、同じく三貴子の兄・ツクヨミがいるんだよ」


 スサノオの説明に、タヂカラオは度肝を抜かれた。

 アマテラスやスサノオの出生については知っていたつもりだったが、三柱いた事は彼も知らなかった。


「……夜にしか出現しない、月の神だってのか? それがなんで昼間、普通に話せるんだよ?」

『全く話せない訳じゃない。だがこうして言葉を交わすだけでも我が神力を消費するし、昼の間は眼も見えないのだ』


「そうか……そいつは、色々と不便だな」

『哀れみは要らん。そんな事より今は、話を聞かないアマテラスをどうにかするのが先決だ。

 このツクヨミに策がある。スサノオは元より――タヂカラオ。お前にも協力して貰うぞ』


 何とも鼻持ちならない言い草と態度であったが、タヂカラオは耳を傾ける事にした。

 年端も行かない少年神スサノオの理不尽な境遇を気の毒に思ったし、出来うるなら何とかしてやりたいと思った為だった。


「……分かった。その策とやら、聞かせて貰おうじゃねえか。

 ただ俺は頭を働かせるのは苦手だから、あんまり複雑な話だったら自信がねえぞ」

『なぁに、そんな心配はしなくていい。言ってしまえば単純な事さ……』


 ツクヨミはこれから行う「策」について、二柱に語って聞かせた。

背中に一千本、両の腰に五百本ずつ

 実際にこれだけの数を携帯している訳ではない事に注意。この時代の大きな数字は実数ではなく「とにかく数え切れないぐらい沢山」といったニュアンス。

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