悪魔の援軍
魔石の【爆発】、シアの【雷撃】は、悪魔の命を奪うには至らない。だが、奪ったものが無かったわけでは無い。
悪魔が奪われたものは何か?
それは戦いの流れだ。
至近で爆発した魔石は、当然の事ながら悪魔を混乱させる。そこに間髪入れずに放たれたシアの【雷撃】の直撃を受けてその混乱に拍車がかかったのだ。
その混乱から立ち直るまでにどれ程のダメージを与えるかによって、この戦いの流れが決定付けることが出来るのだ。
戦いが始まるまでのジェド達と悪魔の距離は約30メートル…。
3~4秒で悪魔を間合いに捉える事が可能なはずだ。ジェドが走りながら剣を抜き放ち突きを放つ体勢で走る。
悪魔は体勢を立て直したが、その目には明らかな動揺が見られる。体勢を立て直したときにはジェド達が目前に迫っているのだから当然の事だ。先程の詠唱をして放つ魔術は先手を打たれた事で霧散している事をジェドは見抜いていた。このままいけば、問題なく悪魔の腹にジェドの突きが決まる事は間違いなかった。
だが…。
戦いはそう都合良く進むとは限らない。今回の場合もそれだった。確かに悪魔自体の隙はついた。そのために悪魔が一体だけなら勝負は決まっていただろう。そう、悪魔を護衛する者達がいたのだ。
その部下達は悪魔とジェド達の間に突然現れた。いや、突然というのは語弊がある。数個の魔法陣が浮かび上がるとその魔法陣から部下達が現れたのだ。
(ちっ…護衛か)
ジェドは心の中で舌打ちをする。現れた部下達は中位悪魔が3体、下級悪魔が10数体だ。
(仕方ない…)
ジェドは方針を転換し、一体の下級悪魔の首を刎ね飛ばした。返す刀で隣にいた下級悪魔の首を刎ね飛ばす。
中位悪魔3体が【魔矢】を放つ。放たれた【魔矢】はジェドの足下に着弾し、ジェド達の足は止まる。そしてこれはジェド達の奇襲が失敗に終わった事を意味していた。
主の危機を救った部下達はジェド達に嘲りの表情を浮かべる。
「ふん…人間如きがゲオミル様にここまでの無礼…許されると思うなよ」
「ゲオミル様、ここは我らにお任せ下さい」
中位悪魔が悪魔に対して追従の笑いと共に忠誠心あふれる言葉をかける。どうやら悪魔の名前は「ゲオミル」というらしい。
死霊術士のリッチが今際の際に「ゲオ…様」とか言っていたために、ある意味予想通りだった。そしてゲオミルはリッチを配下に持っている事から、死霊術を使えることをジェドは確信する。
「ふ…頼もしい奴等よ。ゲント、カーノン、デヴォード…こいつらを八つ裂きにしろ。そしてオリヴィアを私の所に連れてこい」
配下に者に救われた事により、余裕を取り戻したゲオミルは口元を歪めて嗤う。ひたすらに人の不快感を刺激する嗤いにジェドも舌打ちを堪える。
「お任せ下さい!!ゲオミル様…すぐにこいつらを八つ裂き…がぁ!!」
中位悪魔の一体の得意気な声は突如中断する。その悪魔は追従の笑いと浮かべゲオミルを見て言葉を述べていたのだ。この状況でゲオミルを見ると言うことはジェド達に背を向けていると言う事だ。
ジェドの間合いで呑気に背を向ける中位悪魔に対し、そこまで隙を晒してくれた以上、それに答えないというのは、逆に悪いと考えたジェドは自分の剣に魔力を込めて投げつけたのだ。
ここで攻撃が来るなどと甘い認識しか持っていなかったゲオミル一行は当然、この攻撃に対処する事は出来なかった。ジェドの剣は延髄から中位悪魔を貫き、鋒が口から突き出ている。
この中位悪魔は自分の身に何が起こったのか理解していなかったことだろう。目から光が失われ、中位悪魔は倒れ込んだ。
悪魔達は呆然とその光景を見ていたが、一瞬後には仲間がやられた事を理解すると先程までの余裕の表情は一転して怒りの形相に変わった。
「カーノン!!おのれ、貴様!!」
「卑怯者が!!」
どうやらジェドが斃した中位悪魔の名前はカーノンというらしかったが、ジェドはそれを気に留めう様子は一切無かった。
「なんだ…ど素人かよ…」
それどころかジェドの口から侮蔑の言葉が紡ぎ出される。ジェドにしてみればこの状況であそこまで隙を晒しておいて大丈夫と思える悪魔の呑気さは軽蔑の対象でしか無かった。
ジェドの中で悪魔達の評価の落下が止まらなかった。




