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先手

(そろそろだな…)


 悪魔が冷静さを失い始めた事を察したジェドは心の中でそう独りごちる。


 どうやらあの悪魔は人間如きに論破されそうになっている事に相当、頭にきているようだ。


 ジェドとシアは、ロムやキャサリンの指導、アレン達との交流からかなり戦闘による姿勢がアレン達と似てきたのだ。


 そのため、ジェドは悪魔との戦い臨むにあたり、考え無しに突っ込むような事は絶対にしない。そのような暴挙が許されるのはアレン達のような実力者にのみ許される事だ。もっとも、許されるはずのアレン達自体がそんな暴挙はやらないのだが。


 悪魔がオリヴィアの心を折りに来たのは単なる戯れだった。悪魔にとってオリヴィア達は単なる玩具にすぎないのだ。自分の嗜虐心を満足させるためだけの存在だった。子どもが無邪気に虫を殺すような残虐な行動だった。


 だが、ジェドにとってはそうではない。オリヴィアの心が折れないようにするのは悪魔を斃すための絶対に必要な欠片であると考えていた。そのため、ジェドはこの舌戦を命の取り合いに等しいモノと捉えていた。まぁ、途中で煽るのが楽しくなってしまったのは否定出来ない。


 そしてジェドが舌戦を展開していた理由はもちろんそれだけではない。悪魔の怒りを自分に向けさせるという目的もあったのだ。


 では、悪魔の怒りを自分に向けさせることで、どのような利点が生まれるのか?


 その鍵を握るのはシアだ。


 ジェドと悪魔の舌戦に、シアは時々合いの手を入れるが基本は見守っているように見えた。だが、実際には戦いのために準備を整えていたのだ。


 その準備とは『魔石』である。


 魔石には魔術を込める事が可能なので、すでにシアは購入した魔石に自らの魔術を込めてある。前回の悪魔討伐のために仕入れた魔石であったが結局、使わなかったので今回はそれを使う事にしたのだ。


 だが、魔石を投げつけたところで悪魔はあっさりと対処してしまうことだろう。悪魔の近くに気付かれずに魔石を配置して、作動させることで悪魔の不意をつけるのだ。


 ジェドが悪魔との舌戦を開始したときシアはチャンスと思い。魔石の配置に乗り出したのだ。その配置方法は非常に簡単な方法だっだ。シアはキャサリンとの修行で、魔力の塊を操作する事が出来るようになっていた。

 今では魔力の塊を器用に操り、廊下の拭き掃除ぐらいは苦も無くする事が出来る。


 シアがしたことは、魔石を魔力でくるみ、それを操作して気付かれずに悪魔の近くに運んだだけである。シアのやっていることに悪魔は気付かない。ジェドとの舌戦により冷静さを失っていたからかも知れない。だが、それがなくとも悪魔がシアの魔力操作を探知するのは簡単ではない。


「ジェド…」

「なんだ?」

「もう、良いんじゃない?これ以上はいくら、悪魔でも可哀想よ」


 シアの言葉にオリヴィア一行も困惑している。だが、ジェドはシアの言葉の意図を正確に察している。その意図とは、もちろん『準備が終わった』だ。


「いや、この悪魔のように勘違いしている奴を煽るのが想像以上に面白くて…」

「もう、やり過ぎよ。すみませんね~悪魔さん、随分とコケにされちゃったの傷付いたと思いますが我慢してください」


 シアの言葉もかなり非道いものだ。


「貴様ら…どこまでも…」


 悪魔は怒りのあまり口が上手く動いていない。


「あ、そうだ」


 ジェドが思い出したように悪魔に声をかける。


「お前の名前はなんて言うんだ?」


 ジェドの言葉に悪魔は「は?」という表情を浮かべる。その様子を見てジェドは露骨に蔑んだ視線で悪魔を見る。


「はぁ…やっぱり察しの悪い残念な知能しかない悪魔だな。お前を殺した時にギルドに報告するためだろ」


 ジェドの言葉に悪魔は一端、消えた怒気が再び呼び起こされたようだ。


「ふざけるな!! 貴様ら如きにこの俺が斃せると思っているのか!!」


 悪魔の怒りは神殿内を振るわせるほどすさまじいものであった。『破魔』、アグルスは緊張の度合いを高め、新しく雇い入れた冒険者達は恐怖のためにカタカタと震えている。だが、それほどの怒りであってもジェドとシアは涼しい顔をしている。


「当たり前だろ、お前ごときが何をしようが踏みつぶすつもりだ」

 

 ジェドの言葉にシアが続く。


「ええ、ラティホージ砦の悪魔も偉そうな口を叩いていたけど、大した事はなかったわ」


 シアの言葉に悪魔だけでなく他の者達も驚いた顔をする。悪魔は怒りの形相だが、その怒りはジェドとシアに向けられたものもあるが、人間如きに敗れたという同族のふがいなさに向けられたものである。他の者達は悪魔を斃したという二人に頼もしげな視線を送っている。


「さて…名前を教えるつもりは無いみたいだし…さっさと始めようか。どうせゲオなにがしという名前だろうしな。オリヴィアさん、すぐにあの悪魔を動けなくするので、トドメをお願いしますね」

「は、はい」

「『破魔』のみなさん、アグルスさん…始めるとしましょう」

「あ、ああ」

「他の冒険者の方々はオリヴィアさんの護衛をお願いします」

「お、おう」


 ジェドが勝手に割り振りを始めるが、これは悪魔に自分こそこの一行の指揮官であると誤認させるためである。ジェドは悪魔の攻撃を引き受けるつもりなのだ。


 ジェドはヴェインに小声で話す。


「ヴェインさん…これであの悪魔は俺を狙うはずです」

「でも良いのか? 危険だぞ」

「みんな危険なのは一緒です。それよりもオリヴィアさんとの事…うまくいくと良いですね」

「…知ってたのか?」

「まぁ…どこで気付いたかは、後で伝えますからね」

「ああ」


 ジェドの言葉にヴェインの声は苦笑しているようだ。だが、それを表面に出すようなことはない。


「シア…頼む」

「まかせて」


 ジェドの言葉にシアは詠唱を始める。詠唱が進むうちにシアの掌に紫電が発生する。


 その様子を悪魔は余裕を持って、いや露骨に蔑んだように口元を歪めている。シアの放とうとしている魔術は【雷撃ライトニング】だ。


「フン…人間にしては大した腕前なのだろうな…だが…」


 悪魔の口が嘲りを浮かべる。実際にシアの詠唱から魔術を形成するまでの魔力の操作は並の魔術師より優れているように悪魔が思ったのも間違いでは無い。


 だが、シアはあえて悪魔の注意をひくために普段は行わない(・・・・)詠唱を行ったのだ。


 その理由はシアに悪魔の意識を向けさせること…逆に言えば仕掛けた罠を気取られぬようにすることが目的だった。


 悪魔は口元を歪め、格の違いを見せつけようと詠唱を始める。詠唱をしても自分と人間とは違う事を示そうとしたのだ。


 そして…


 悪魔が詠唱を終え、魔術を放とうとした瞬間にそれは起こる。


 シアが魔石に込めた魔術を発動させたのだ。発動した魔術は【爆発エクスプロージョン】だ。


 ドォォォォォン!!


 爆発音が響き、爆風が神殿内を揺らす。悪魔は完全に攻撃を行うつもりだったためにこの出来事に混乱する。


 そこにシアは【雷撃ライトニング】を放つ。


 ビシィィィィィ!!!


 亜高速で放たれたシアの【雷撃ライトニング】は悪魔に直撃した。


 もちろん、これで悪魔が倒れるとは思っていない。


「行きますよ!!」


 ジェドの言葉にヴェイン、アグルス、ロッド、フォーラ、コルマが駆け出した。



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この作品の本家になります。 無双モノです。 墓守は意外とやることが多い
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