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悪魔との邂逅

 爆風が収まり粉々になった神殿の扉を見て、全員が呆然とする中を悠々とジェドとシアは中に入ろうとする。


 それを止めたのは、混合チームの『シルバー』の冒険者であった。


「お、お前らバカか!!」


 もっともな言葉であるが、ジェドとシアはまったく動じていない。この状況で悪魔が一行の行動を把握していないなどというのはあり得ない。それなら、扉の所に部下を伏せておく可能性も十分にある。ジェドはそれなら、一気に吹き飛ばしてしまった方が良いという判断に基づいて行ったのだが、どうやらジェドとシアの行動は他の者達には理解するのが難しかったらしい。


「扉の所に敵がいたので先手を打って吹っ飛ばしたのです」


 ジェドは本当に敵がいたかをまったく把握していないのだが、面倒だったのであっさりと嘘をついたのだ。


「ほ、本当か?」


 まだ疑いの目で見る冒険者であるが、ジェドもシアもまったく悪びれた様子もなく頷く。


「さて、行きましょう」


 ジェドの言葉に全員が頷く。といっても積極的に頷いたというよりも仕方なく頷いたというのが正しい。もはやこの場でジェドとシアを責め立てても意味が無い事を冒険者達もわかっており、呑み込むことにしたのだ。


 扉の中に入るとそこはちょっとした空間だった。エントランスのような感じになっているが当然ながら人気ひとけは全くなかった。


 入り口から10メートル程の距離にもう一つ扉がある。


 シアは先程同様にその扉に向かって【爆発エクスプロージョン】を放った。


 ドゴォォォォォォ!!


 凄まじい爆発音とともに扉が砕け飛ぶ。


 ジェドとシアの行動に対して一行は今度は何も言わない。すでに一度、破壊した以上二度も三度も一緒と思ったのだ。


 爆風が収まり中に進むとそこは礼拝堂だった。奥に禍々しい2メートル程の高さの像があり、その前に一体の悪魔こちらに背を向け立っている。


 その悪魔は神官風の服を身につけている。側には一本の杖がフワフワと浮いている。


(後ろの趣味の悪い像が…あいつの神か…)


 ジェドが趣味が悪いと思ったのも無理は無かった。その像は、人間の体に蠅の頭が乗ったものだったからだ。


「…随分と野蛮な連中だな」


 背を向けていた悪魔は振り返る。


 すると他の者達は悪魔が振り返った所に鉢合わせしてきた形になる。するとほとんどの者達が不快気に顔を歪ませる。


 悪魔の容貌は奇怪なものであった。目が縦に3つ並び、鼻はひしゃげ、口元から不揃いな牙がのぞいている。身につけている神官服が豪華であるがゆえにその容貌の醜さが際立ってしまっていた。


「お前がレンドール家に呪いをかけた悪魔か?」


 ヴェインが神官服を身につけた悪魔に向け声をかける。


「ふふ…愚かな、我は呪いなどかけてはおらんぞ」


 悪魔はヴェインの言葉を真っ向から否定する。


「レンドールは引き替えたのよ」

「引き替えた?」

「ああ、子孫の一人の命と引き替えに一族の繁栄をな」

「どういうことだ?」


 悪魔の言葉にオリヴィアの顔が強張る。


「オリヴィア様?」


 シェイラが気遣うようにオリヴィアを見る。


「お前達はどう聞いたかは知らぬが、レンドールに引き継がせたのは呪いなどでは無い。契約だ」


 悪魔はさらに続ける。


「レンドールは代々、俺の支援で勢力を拡大したのよ」

「う、嘘よ」


 悪魔の言葉にオリヴィアはかろうじて声を絞り出す。


「何を言っている。お前は生贄だ。お前の父、母、兄弟達はそれを承知の上だ」

「そ…そんな…」

「ふ…信じたくなければ信じずとも良い。俺は事実を語ってるに過ぎん」


 オリヴィアの顔には、動揺が色濃く浮かんでいた。信じていた家族が自分を裏切っているという言葉を投げ掛けられ動揺しない者は少数派だろう。


(…さて、あの悪魔はオリヴィア嬢を動揺させて何を狙っている?)


 ジェドは悪魔の言葉を最初から疑っている。オリヴィア嬢は悪魔が本当の事を話していると思っているつもりだろうが、ジェドはそう思っていない。もし、本当にオリヴィアが生贄だとしてそれをこの段階で告げる必要がどこにあるというのだろうか。


 それに、本当にオリヴィアが生贄だというのなら、なぜジェドとシアをオリヴィアが雇うと言った時にレンドール家の者達が雇用に反対しなかったのだろうか。


 ジェドとシアの実力を知ったら当然、オリヴィアを得るのに障害となるのはわかっていたはずだ。それをしなかったという事はレンドール家は少なくともオリヴィアを生贄として差し出したというわけではない。


 ジェドはそう考え、悪魔の言葉は嘘と結論づける。そう結論づけると、悪魔を論破する事にする。オリヴィアが気の毒というのも勿論あるが、悪魔を斃すための一手をオリヴィアが持っている以上、心が折れたままでは困るのだ。


「どんな気分だ?信じていた家族に捨てられた気分は?」


 悪魔の言葉にオリヴィアは顔を青くして沈黙している。『破魔』のメンバーもアグルスも他の冒険者達も沈黙している。


「ねぇジェド、あの悪魔の目的は何だと思う?」


 そこにシアが声を出す。


「う~ん…奴の言葉が嘘だというのはわかるんだが、何の目的の嘘なのかがわからん」


 ジェドもシアの言葉に乗っかり嘘と断言する。


 ジェドとシアの『嘘』という言葉にオリヴィアが反応する。いや、他の冒険者達も怪訝な表情を浮かべている。


「う、嘘?」

「ジェドさん、シアさん、嘘ってどういうこと?」


 オリヴィアの呆然とした声とシェイラの尋ねる声が発せられた。


「え? だってなぁ?」

「うん」


 ジェドとシアは「え?わかんないの?」という表情を浮かべる。


「だって明らかに嘘だとあいつが言ったじゃないか」


 ジェドは悪魔を指差して断言した。


(さて…とりあえず、注意を引きつけることには成功したな)


 ジェドは心の中でほくそ笑んだ。

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この作品の本家になります。 無双モノです。 墓守は意外とやることが多い
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