三つ巴の戦い①~ジェド、シア側視点~
第三者がいる…。
ヴェインの言葉にジェドとシアは顔を見合わせると周囲を警戒する。
「あ…」
シアの言葉から声が漏れる。この声がヴェインの言葉を肯定していることを示していた。
「厄介そうな相手か?」
「ええ、この気配は魔族よ…」
「という事は悪魔の仲間の可能性があるということだな」
シアの『魔族』という発言にジェドも警戒を強める。
「ジェド、シア、とりあえずもう少し行った所で『魔狼』を迎え撃つと言う事になっている」
「迎え撃つ?」
「ああ、男の話では伏兵に置かれている数は約40という事だ」
「こちらの4倍ですよ?」
「ああ、だが、ジェドとシアが予想以上に頑張ってくれたために挟撃はなくなった。それどころか各個撃破の絶好の機会だ」
「確かにそうですが…」
ヴェインの言葉にジェドもシアも考え込む。確かにジェドとシアの活躍により挟撃はなくなったのだが、それでも数が多いのは事実だ。少なからず損害が出るのは間違いなかった。
「戦わずに済むのならそれで有り難いのだが、現実は『魔狼』はどこまでも俺達を付け狙う。それよりも条件の良い方で迎え撃つ方が損害が少なくすむ」
ヴェインの言葉には正論だ。ここで『魔狼』の追求を逃れても問題を先送りにするだけであり根本的な解決にはならないのだ。ジェドの見たところ、ヴェイン始め『破魔』とアグルスの実力は相当なものだ。
数が多いだけの傭兵団相手に遅れを取るような事はないだろう。となると有利な場所で先手を打ち、『魔狼』を斃すのが現実だろう。
「わかりました。それではその場所まで急ぎましょう」
「ああ、幸いまだ伏兵の連中は動き出していないようだ」
「何か合図とかがあるわけですか?」
「いや、決まった時間になっても来ない場合は行動を開始するという話になっていたらしい」
「なるほど」
ジェドは『魔狼』の作戦のお粗末さに笑ってしまう。おそらく、こちらの数が少ない事から舐めていたのだろう。二流か三流になればなるほど敵を侮るのは何故だろうとジェドは本当に不思議だった。実力が低いからこそ油断というものから遠くなければならないのに、どういうわけか実際は逆な事が多い。
「それじゃあ、行こうか」
ヴェインの言葉にジェドとシアは移動する。
「俺達がたおした連中は死んでいませんよ。どうします?」
ジェドの言葉にシアも頷く。戦闘力を奪っているのは確実なのだが、敵に治癒術士がいる場合は再び襲撃に加わるかも知れない。
「放っておいて構わない。あっちに治癒術士がいたとしても、その数は多くないだろうから、全員の治療には時間がかかるだろう。そいつらの治療をするのに足止めできれば良いし、治癒術士を置いてくればそれだけであっちは戦力が大幅に落ちる。どちらに転んでもこちらにとっては何の問題もない」
「わかりました」
ヴェインの言葉にジェドは了解の意を発すると一行は移動を開始する。魔族の方はすでにこちらを捕捉している可能性は高いが、とりあえずは『魔狼』を先に対処するという事に落ち着いたのだ。
10分程一行は進むと、街道の脇に空間があった。他の街道沿いには木が生い茂っており人はともかく馬車は入り込めない。だが、その空間にはかなりの広さがあり、馬車は二台が入ってなお余裕があった。
街道沿いにはこのような休憩地点がいくつか整備されている。隊商のために整備されたこの休憩地点では当然ながら野営を行う事も出来る。オリヴィア一行はここで『魔狼』を迎え撃つ事にしたのだ。
街道から死角となっており、先手を打つことが出来ると考えたという事だった。
ジェド、シア、『破魔』が前衛を務め、兵士達はオリヴィアを護衛することになった。裏を取られた時のためにオリヴィア一行の近くにはアグルスが控える。アグルスの実力はジェドとシアは未見だが、ヴェイン達が信頼している所を見るとそれなりの実力者と見て良いだろう。
「みなさん…一つ提案があるんですが…」
ジェドの言葉にシア、『破魔』のメンバー達がジェドに視線を移す。
「どうしたの?」
シアがジェドに尋ねる。
「この作戦の肝はここで待ち伏せをしている事を悟らせないことだと思う」
「確かにそうだね」
ジェドの提案にヴェインが肯定する。そして、他のメンバーも頷く。
「俺とシアが囮になって誘い込むというのはどうでしょうか?」
「囮?」
「はい、先程俺達が蹴散らした連中は当然ながら生きています。その連中から俺達の事を聞いていると思います」
「確かにそうだな」
ヴェインは頷く。
「そこで、俺達が少し戻って『魔狼』をおびき寄せ、そこを叩く」
「悪くない手だが、現実にやると難しいと思うぞ、相手は傭兵団、言わば戦争のプロだ。二人の行動に不審な点があれば逆に警戒されるんじゃないか? それに二人がこの段階でのこのこと道の真ん中を歩いているのは不自然だ」
ヴェインの言葉は正論だ。『魔狼』の連中は曲がりなりにも戦争でメシを食っている連中だ。そんな連中を罠に嵌めるのは並大抵の事では無い。倒れている連中から指揮官が捕まった事も伝えられるだろうから、二人が一行から遅れたというのならその指揮官を連れてなければ不自然だ。
「いえ、俺達は罠をしかけるために一端一行から離れている風を装います」
「?」
「多分、魔狼は斥候を放つんじゃ無いでしょうか?」
「そりゃ、斥候ぐらい…」
「その斥候に俺達を見つけさせます」
「わざとか?」
「ええ、そうすれば俺達が遅れているのも筋が通ります」
「…」
「どうでしょうか?」
ジェドの言葉に『破魔』のメンバーは沈黙する。
「良いかな?」
そこにロッドが口を開く。
「なんでしょうか?」
「なぜそこまでする? 危険な事は明らかだろう」
ロッドの言葉にジェドはあっさりと答える。
「誤解しないで欲しいのは、別に自己犠牲とか仲間のためとかじゃないんです」
「…ほう?」
「これが一番手っ取り早いんです。そしてこの一行での俺達の評価が上がるのは間違いありません。レンドール家との関わりを強めることは俺達にとって利益が大きいんです」
「なるほどな…」
ロッドは納得の表情を浮かべる。いや、ジェドの言葉を額面通り受け取ったわけでは無いだろう。ジェドがあげた理由は半分はその通りだ。だがもう半分は単純に兵士達が傷付くのが嫌だったのだ。
魔物との戦いで命を落とした兵士達の事を考えると、ものすごく気分が沈んだ。残された家族の気分を考えると気持ちが憂鬱になる。もちろん、ジェドが責任を感じる事は一切無い。むしろジェドとシアの活躍によって被害は、かなり押さえられたのだ。
その事はジェドも当然理解しているが、感情が憂鬱な気分になるのは避けることは出来なかった。
なんだかんだ言って、ジェドは敵対していない者に対しては情が厚いのだ。そしてシアもその傾向がある。すべての人間を救うことなど出来ない以上、せめて自分達に敵意を持っていない人達には幸せになって欲しいのだ。
「でも、ジェドさんとシアさんだけじゃ…」
シェイラが声をあげる。ジェドの言葉は正しいと納得してるが、それでも二人だけに押しつけるのはという忸怩たる思いがあったのだ。
「心配してくれるのは嬉しいけど、この案は二人でやることに意味があるんだ」
「でも…」
「俺とシアのコンビは長い。連携の練度と奴等が俺達の顔を知っていた場合は、俺達が最適だ」
「ええ、確かにそうね」
ジェドとシアの言葉にシェイラも納得したようだ。
「それじゃあ、俺達は席を外しますので、みなさんは警戒をよろしくお願いします」
ジェドとシアがそう言って街道を戻るのを『破魔』の三人は見ていた。




