傭兵団襲撃②
「シア!!」
「うん!!」
ジェドの言葉にシアは頷くと【騒音】を放つ。【騒音】は園なの通り炸裂すると凄まじい音を発する魔術だ。魔術によって作成した騒音を魔力で覆い、敵に放ち、任意に音を発生させることが出来る。
ただの音の塊などでは無く実際に至近距離で発動すれば人間の鼓膜ぐらい簡単に破る事が出来る。いわば音響兵器と呼ぶに相応しい術だ。
シアが手をパンと打つと同時に離れた所で何かが砕ける音が周囲に響き渡った。離れていたジェドとシア、そして護衛の兵士達はただビックリしたというレベルで済んだのだが、至近距離で受けた襲撃者には少なからず被害が出た事だろう。
「シア、一端引くぞ」
「わかったわ」
ジェドの提案にシアは即答すると背後の護衛達の元に下がる。まだ、襲撃者は取り囲んでいないようだ。
「エイバンさん」
「ああ、奴等は矢と魔術で遠距離から攻撃できるようだな」
「はい、遠距離で攻撃し、こちらが萎縮したところを直接戦闘で…というのが基本的な流れだと思われます」
「そうか、聞いての通りだ。各員備えろ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
エイバンの命令に兵士達が応える。
「君達は敵の遠距離からの攻撃に対処してくれ」
「はい」
「わかりました」
エイバンの言葉にジェドとシアは即答する。ジェドとシアが返答した瞬間に相手側から魔矢が放たれる。凄まじい速度で放たれる魔矢であったがシアは防御陣をすぐさま構成し、魔矢は防御陣に衝突すると消え失せる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
1人の敵が剣を振りかざして突っ込んでくる。ジェドはその男の進行上に立ちふさがると男はジェドに狙いを定めたらしい。ジェドは男の斬撃を無造作に剣を振るってはじき返した。弾かれた剣は遠くに飛んでいく。
ジェドは剣を失ったその男の腹部に強力な拳を入れると男の体はくの字に折れ曲がり、膝をついた。膝をついた男の後頭部を掴むとジェドはエイバン達の元に放り投げる。中を飛んだ男は肩口から地面に落下する。
地面に落下した男を兵士達が押さえつける。
これでジェド達は情報源を手に入れる事に成功したことを意味する。ジェドがこの男を斬らなかったのは理由がある。襲撃が非常に稚拙なのだ。魔術、矢により遠距離から攻撃し、萎縮させ流れを掴み白兵戦に持ち込むというのが相手の作戦と思っていたのだが襲撃者が一人ずつしか襲ってこない事が不可解だった。
これでは各個撃破されて終わるだけだ。
「シア、相手の意図がまったく読めないから気を付けてくれ」
ジェドの言葉にシアが頷きかけるが、すぐに難しい表情を浮かべるとジェドに言う。
「ジェド…露払いをしましょう」
「え?」
シアの提案にジェドは呆けた返事を返す。
「あちらの思惑がここに私達を足止めすることであれば…ここに留まるのはまずいわ」
「確かにそうだが…」
「もちろん、慌てて進んだ先に罠を張っている可能性もあるわ。それなら私達が露払いをして一行の安全を確保しましょう」
シアの提案にジェドは一瞬考えるがすぐに頷く。
「わかった。シアの案で行こう」
「ありがとう。ジェド」
「エイバンさん、俺達2人でまず露払いをします。頃合いを見て進んでください」
「…わかった」
エイバンはジェドとシア2人だけに危険な目に遭わせるのは心苦しかったのだろう。複雑な表情を浮かべている。だが、ジェドとシアにしてみればこれは自分達の仕事だと思っていたのだ。
「シア、援護を頼む」
「うん」
ジェドとシアはお互いに確認すると駆け出していく。
先頭はジェド、シアが後に続いた。ジェドが先程、矢と火球が飛んできた方向に向かって飛び込む。
「うっ…」
その時ジェドの目に約30人ほどの男達がボウガンを構えている姿だった。どうやらじれて突っ込んで来た所を射殺す算段だったらしい。だが、ジェドは構わず突っ込む。
男達は突っ込んできたジェドの姿に嘲りの表情を浮かべている。どうやら破れかぶれの突撃を選択したと思ったらしい。男達の目にはジェドが単なる獲物としか見えなかったのかもしれない。
だが…
ジェドは破れかぶれで突っ込むような事は絶対にしない。ジェドの為人を把握している者であれば即座に思った事だろう。『何かある』…と。
指揮官と思われる男が手を上げて「放て」の号令と共に手を振り下ろすと一斉にボウガンの矢がジェドに向かって放たれる。
ジェドがボウガンを構える男達を見つけてから5秒ほどの時間があった。
もし、見た瞬間に矢が放たれていたらジェドは回避を選択していただろう。だが、実際には瞬間に放たれなかった事はジェドにとって突撃を選択する理由としては十分すぎたのだ。
ジェドと一斉に飛来する矢の間の空間に一つの魔力の塊が放たれる。魔力の塊はジェドの前で膨張し直径3メートルほどの円形の盾を作り出す。放たれた矢のすべては盾にぶつかると力を失い地面に落ちる。
この盾を作り出したのはもちろんシアである。射手を見つけた瞬間にシアは魔力を形成し前面に放つ。ジェドなら自分の魔術を信頼して突撃を選択すると思ったのだ。それからわずか5秒で魔力で盾を作り出したのだ。
矢をすべて弾いた事が男達はわかり驚愕する。ボウガンは再装填するのに時間がかかるのだ。目の前にはジェドが迫っておりその時間がないのは確実だった。
ジェドは地面を蹴り跳躍すると射手の1人の顔面を蹴り砕いた。跳び蹴りを受けた射手は吹っ飛び、着地したジェドは左右の男の腕を斬り落とした。
男達は初手でしくじった事に、この時はまだ気付いていなかった。




