決戦⑩
肩を貫かれた中位悪魔はシアを睨みつける。
そこにシアは容赦なく追撃の【魔矢】を放つ。十数本の魔法の矢が中位悪魔に容赦なく直撃する。そこにジェドが背後から中位悪魔の首を落とした。
「よし…」
ジェドは中位悪魔の絶命を確認するとゲオミルに目を移す。
「おのれ…」
ゲオミルは凄まじい目でジェドを睨みつける。完治はしていない事は確実であったが、ゲオミルは立ち上がりジェド達を迎え撃つ事になった。なんとか立ち上がった所を見ると悪魔の生命力はやはりインゲンとは段違いに高い事はわかるのだが、戦闘力はどう考えても万全状態の2~3割ぐらいであろう。
「まて…」
ゲオミルは左手を前に出し、ジェドを制止しようとする。
「私は…オリヴィアの呪いを解く…だから、命だけは助けてくれ」
「断る」
ゲオミルの命乞いをただ一言で拒絶するとジェドは一歩踏み出してきた。ジェドの態度にゲオミルは顔を青くする。
「頼む…オリヴィア、私はお前達レンドール家の協力者だ。私が死ねばお前の家は間違いなく没落する」
ゲオミルの言葉にオリヴィアは動揺を示す。戦い前のゲオミルとのやり取りの動揺が再び揺り動かされたのだ。
「くどいですよ。ゲオミル」
そこにシアの冷たい声が響く。その声にゲオミルは敵意の籠もった目をシアに向ける。
「オリヴィアさん、あなたの家の思惑がどうあれ、悪魔の思惑がどうあれ、あなたはゲオミルを討ち取るためにここに来たのでしょう?」
シアの言葉に全員が沈黙する。激しい戦いを繰り広げていた下級悪魔達も冒険者達も全員がシアの言葉を聞いている。
「私達は悪魔を滅ぼすためにここに来たとあなたは言っていましたね。あなたは私達を欺したのですか?」
「そんな事はありません!!」
「それなら何を動揺する必要があるんです? ここで斃さなければ次はあなたの娘か孫が付け狙われるのですよ」
シアの言葉にゲオミルは慌てる。ここでオリヴィアを丸め込めねば命を失うのだ。
「まて…私はもう、レンドール家に関わらないと誓う」
「黙っておきなさい」
シアは【魔槍】を放ち、ゲオミルの腹を貫く。情け容赦のない一撃に場は凍り付く。腹を貫かれたゲオミルはその場に膝をつく。
シアはゲオミルが言葉巧みに時間を引き延ばし、治癒していると判断していたために話を打ち切りたかったのだ。それはまったくの杞憂なのだが,ジェドもシアも最悪のシナリオを想定して動くことにしている。
「オリヴィアさん…ゲオミルがレンドール家に関わらないという言葉を本気で信じるんですか? 確かに魅力的な提示でしょう。手を汚さずに解決するのですから…でもね、あなたは家族のために悪魔を滅ぼすのでは無かったのでは無いですか? あなたの覚悟はその程度なのですか?」
シアの言葉にオリヴィアは微笑む。
「そうですね…私がぶれてしまえば…家族が、みなさんが…困ります」
オリヴィアはそこで一端、言葉を切る。
「ゲオミル…今まであなたが我が伯爵家に貢献したとしても、そんなことは関係ありません」
オリヴィアの言葉にゲオミルの顔が凍る。オリヴィアの意思表示は死刑宣告に等しかったのだ。
オリヴィアの心が完全に決まった事に対して、ジェド、シアは満足気に頷く。ゲオミルの言葉は口から出任せであることが明らかだったためにジェドもシアもさっさと殺そうと思っていたのだが、オリヴィア自身がトドメを刺す必要があると言う事だったので、自重していたのだ。
まぁ、ゲオミルの言葉が本心から来るものであったとしても『家が没落する』と言った次の命乞いの言葉が『もう関わらない』なのだから、どっちみちレンドール家にゲオミルが関わる事は無いのだから生かしておく理由はないのだ。
ゲオミルが完全に追い込まれた事を察した下級悪魔達は、放って逃げ出す。今まで戦っていた冒険者達は呆然としながら命が助かった事に安堵の息を吐き出す。
「あら…何というか…」
ジェドの可哀想な者を見る目がゲオミルに注がれると、ゲオミルは屈辱のために目も眩む思いだった。
「ヴェインさん、オリヴィアさんがゲオミルにとどめを刺すときには、あなたが補助してやってくださいね」
「ああ」
ジェドの言葉にヴェインが答える。無論、口ではそう言ったが、ジェドもこの最終段階でゲオミルがどのような行動に出るかわからないために警戒を解くつもりは一切無い。
オリヴィアが進み出て首にかけたネックレスを取り出す。銀の土台に赤い宝石が埋め込まれたネックレスだ。そのネックレスを見てゲオミルはオリヴィアの本気度を察したのだろう。動揺を強めている。
オリヴィアはネックレスを掲げると赤い宝石が砕け散り、中から黒い光を放つ魔力の塊が現れる。
「がぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
ゲオミルは魔力の塊が生じた瞬間に立ち上がり足をもつれさせながら、オリヴィアに突進する。だが、ヴェインが間に割り込み、剣を横に薙いだ。
「がっ」
ゲオミルの口から苦痛とも無念ともとれる言葉が発せられゲオミルは倒れ込んだ。
「オリヴィア!!」
「はい」
オリヴィアはヴェインの言葉に頷くと魔力の塊をゲオミルに放つ。魔力の塊はゲオミルの頭上で魔法陣を顕現させた。頭上に顕現した魔法陣からゲオミルに光が降り注ぐ。
「ぎゃぁぁぁぁっっぁぁぁあぁぁっぁぁあ!!!!!」
光を浴びた瞬間にゲオミルは苦しみだし、体から煙を発し始める。
「も、申し訳…ありま……せん…フェル…ネ……様」
ゲオミルは最後に何者かに謝罪の言葉を紡ぎ出す。そしてゲオミルの体が崩れ始め、ゲオミルの体は灰となって消滅する。
レンドール家に付きまとった悪魔ゲオミルの最後であった。




