決戦⑤
ジェドとデヴォードが戦いを始めた頃に、『破魔』の四人、ヴェイン、ロッド、フォーラ、コルマとアグルスは、中位悪魔のゲントと配下の下級悪魔5体と対峙していた。
『破魔』の五人の実力は決して低いものではない。それどころか互いの弱点を補い、事に当たる連携は非常に優れていると言って良いだろう。アグルスも何度か『破魔』と組んだことがあるためにそれなりに連携する事が出来る。
ヴェイン、アグルス、ロッドが前衛を務め、コルマが遊撃、フォーラが後衛を務める。いつもであれば後衛はシェイラが行うのだが、現在シェイラはオリヴィアの所にいるため、フォーラが後衛を務めることになったのだ。
「フォーラ…支援を頼むぞ」
ロッドが娘のフォーラに言うと、フォーラもすぐさま答える。
「まかせて父さん」
フォーラの言葉にゲントはニヤリと嗤う。どうやら、フォーラを狙うつもりらしい。その事を察したヴェイン、ロッド、コルマはさりげなくフォーラをかばうふりをする。
フォーラは『プラチナ』クラスの冒険者に相応しい実力の持ち主であり、決して庇ってもらうだけの女性では無い。だが、容姿の美しさから戦闘には不向きと勝手に勘違いされるのだ。
ヴェインとアグルスは剣を構えるとゲントに斬りかかった。
力を貯めて一気に放つという体の使い方はジェド達とは根本的に異なるのだが、二人の斬りかかるスピードは特筆すべきものであり、身体能力の高さが浮き彫りになったのは間違いなかった。
ヴェインとアグルスの剣がうなりをあげてゲントに放たれる。ゲントはニヤリと嗤うと両腕を魔力で強化するとヴェインとアグルスの剣を受け止める。
「ち…」
「やる…」
ヴェインとアグルスの口から賞賛とも悔しさともとれる言葉が発せられる。フォーラが二人の攻撃の間隙を縫って魔術を放つ。放った魔術は、もちろん【魔矢】だ。
フォーラの【魔矢】は詠唱をしたわけではないので、それほどの威力はない。そしてフォーラ自身、自分の放った【魔矢】でゲントにダメージを与える事を期待して放ったわけでは無い。目的はゲントへの牽制だ。
例え威力が大した事はないという事がわかっていても、攻撃を完全に黙殺するというのは不可能に近い。
ゲントはフォーラの【魔矢】に対して一瞬意識をそらす。そこにヴェインとアグルスがまたも斬りかかった。
ゲントは両腕を魔力で強化しているが、他の部分は強化している様子は見られない。ヴェインとアグルスはそれを見越した上で、両腕以外の場所に斬撃を放ったのだ。具体的に言えばヴェインが右太股、アグルスが首だ。
放たれた【魔矢】をゲントは両腕ではたき落とした事で、右太股と首の位置に隙が生まれた事での斬撃だったのだ。もっと言えば、アグルスの首への斬撃自体が、ヴェインの右太股への斬撃を成功させるための布石であったのだ。
アグルスの大剣がうなりを上げてゲントの首に放たれるが、ゲントはそれを左手で掴む事に成功する。そして、ヴェインの右太股への斬撃を右手で払った。
ゲントは右手でヴェインの剣を払ったのだが、その動きは右拳を振りかぶったような格好になる。振りかぶった右拳が放たれる相手はアグルスだった。ゲントは握った剣を引くとアグルスの体はそれに引っ張られ、体勢が崩れてしまった。そこにゲントの右拳が放たれる。
もしアグルスがまともにこの拳を受けていたら、アグルスは戦闘不能…、いや顔面を砕かれて死んでいたかも知れない。それほどの一撃だったのだ。だが、アグルスもまた『プラチナ』クラスの冒険者として数々の修羅場をくぐってきた男だ。
アグルスは咄嗟に大剣から手を離すとゲントの右拳の横をはたき、何とか軌道をずらすことに成功する。致命傷を避けることには成功したが、アグルスは大剣を手放すという結果になってしまった。
ヴェインとアグルスはゲントから一端距離をとる。
アグルスは自分の腰に差している剣を抜く。この剣は刃渡り40㎝程の剣であるが、このさい贅沢は言ってられなかったのだ。
「アグルス…」
主要武器の大剣を奪われた事にヴェインが心配そうに見る。これまた演技であるが、ゲントには有効かも知れないために敢えてやっておく事にしたのだ。
「大丈夫だ…勝負はこれからだ」
アグルスの返答にヴェインは頷く。
初手での争いは、大剣を奪われた事でゲントに軍配が上がったように思われるが、いくつかの仕込みの結果が出ていないために引き分けと言った所だった。