決戦③
ジェドとデヴォードの戦いは激しさを増している。
デヴォードの虎爪を紙一重で躱すとジェドは斬撃を繰り出す。何度も入れ替わる攻防にしびれを切らしたのは周囲にいた下級悪魔達である。
下級悪魔達は爪を伸ばし剣の様に研ぎ澄ますとジェドとデヴォードの戦いに参入してくる。
ジェドはデヴォードから意識を逸らすような事は決してしないが、下級悪魔などの行動からも意識を逸らすような事は決してしない。今、行われているのは1対1の戦いではない。
いくらでも周囲の者達が横槍を入れてくるような戦いなのだ。下級悪魔達が参戦したことに対してジェドに文句はない。むしろ、まだ入ってこないのかと驚いたほどだ。
ジェドはデヴォードから距離を一端距離をとる。当然、デヴォードがこの隙を逃すような事はしない。一気に押し切ろうと凄まじい連撃をジェドに放つ。
ジェドはその連撃を下がりながら剣を使って逸らしていく。
(失敗したかな…)
ジェドの中に下がったことが悪手だったという思いが生まれるが、ジェドはここで方針転換することにした。
せっかく下級悪魔という新たな要因がジェドとデヴォードの戦いに加わる以上、それを利用する事にしたのである。多対一の戦いは確かに一の方が圧倒的に不利であると言えるかも知れない。
だが、ジェドは不利という状況はひっくり返し自分に有利な状況にする事も出来る事を知っていたのだ。ここでジェドが考えたのは、最もシンプルな方法である『同士討ち』の誘発である。
ジェドはわざとデヴォードから距離を保ちながら下級悪魔達の中に踏み込んでいく。下級悪魔達は、獲物が飛び込んできたとニヤリと心の中で嗤いジェドを取り囲む。
ジェドは周囲を取り囲む下級悪魔達から意識を逸らす事なくデヴォードとの剣戟を展開していく。
デヴォードは虎爪を放つ。ジェドはそれを躱すと背後にいた下級悪魔に斬撃を放った。下級悪魔は躱しきれずにジェドの剣を肩口に受ける。
「ギィィィ!!」
苦痛の声が肩口を斬られた下級悪魔の口から漏れる。ジェドは動きが止まった下級悪魔の首を掴み引っ張ると自分とデヴォードとの間に割り込ませる。
これはジェドにとってある意味、デヴォードという悪魔の戦闘に対する考え方、部下をどのようにみなしているかを確認するための作業である。
デヴォードが下級悪魔を庇うようならば、ジェドは下級悪魔を盾にデヴォードと戦うつもりであったし、無視して攻撃するというのならそれを利用するつもりであったのだ。どちらにしてもジェドに不利益はない。
デヴォードはニヤリと嗤うと構わず、下級悪魔ごとジェドに攻撃を仕掛けてきた。デヴォードの虎爪は下級悪魔の腹を貫き、ジェドに到達しようとした。
が、ジェドはそれを難なく躱す。元々、下級悪魔という盾を使用したのは確認のためであったために下級悪魔ごと攻撃されても何ら動揺はなく、躱すことに成功する。
(なるほど…こいつにとって下級悪魔達は道具に過ぎないというわけだな…)
ジェドは敵が別に部下をどのように扱おうが知った事ではない。人によっては「部下を道具として扱うなんて」と責め立てる者もいるが、ジェドはそのタイプではない。大事なのはこの状況をどのように使うかという事なのだ。
「自分の部下事…貴様ぁ!!」
ここでジェドは激高するふりをする。これが活きるかどうかは現段階では未定だが、一応やっておくことにしたのだ。
「ふん、人間というのは不思議だな。こいつらをどう扱おうがお前の知ったことではないだろう?」
デヴォードの言葉にジェドは『まったくその通り』と頷いているのだが、口に出してはこう言った。
「ふざけるな!!命をなんだと思ってるんだ!!」
ジェドの演技にデヴォードはまたもニヤリと嗤う。ジェドの言葉を青臭い、偽善と思って見下しにかかっているのだ。
「そんなに言うのなら貴様がこいつらを救ってやればよかろう?」
デヴォードの言葉に下級悪魔達も追従の笑みを向ける。
(う…ん、これで良いかな…)
怒りに燃えた目をデヴォードに向ける。もちろん演技だがデヴォードはニヤニヤしながらその視線を受け止めているようだ。
「いくぞ!!」
ジェドはかけ声を一声かけるとデヴォードに向かって踏み込む。デヴォードも周囲の下級悪魔達も突っ込んできた。
しかし、ジェドが進んだのは下級悪魔だ。踏み込んだ一歩目は確かにデヴォードにむけたものであったが、二歩目に方向転換すると下級悪魔の顔面を剣の柄で衝く。痛みに顔を顰める下級悪魔の首を掴むと再び、デヴォードとの間に割り込ませる。
「ふん、どこまでも甘い奴だ」
デヴォードはニヤリと嗤うとまたも下級悪魔ごとジェドに攻撃を加える。デヴォードの手刀が下級悪魔の腹部を貫き、ジェドの眼前に迫る。
「お前もな」
ジェドの言葉がデヴォードの耳に届くとほぼ同時にデヴォードの口から絶叫が響き渡った。
ジェドの剣が下級悪魔ごとデヴォードの右腕を斬り落としていた。




