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白雪姫の母  作者: 三毛猫
7/8

白雪姫の母⑦

ピピピピピ!ピピピピ!


「…ん……?」


ユリは携帯のアラーム音で目を覚ました。

泣き疲れて眠ってしまったのだ。



「(私……何であんなに取り乱したのかしら……?…)」



ユリ自身、あんなに取り乱したのは初めてだった。

マサシに別れを告げられた時でも、あんなに取り乱したりはしなかった。

不思議に思いながらリビングのドアを開けるとタクマが朝食の準備をしていた。



「あっ!母さん。おはよう。コーヒー出来ているよ」



昨晩ユリが暴れたリビングは綺麗に片付けてあり、ユリの手にコーヒーを渡すタクマ。

いつも通りの朝の光景。



「えぇ……ありがと…」



コーヒーを一口飲み、何気なくテレビを眺めていたユリ。

しかし次のニュースが流れた瞬間ユリは氷ついた。



ー速報です。昨晩、何者かによって家族全員殺害されるという痛ましい事件が発生しましたー




ー被害者はこの家に住むオオバマサシさん、妻のアケミさん、息子のユウマさん、祖父のダイキさん、祖母のヨシコさんの5人ですー



ー金品は盗まれておらず、犯人の目的は不明ですが、現在捜査中です…では次のニュースです……ー



違うニュースになってもユリはテレビから目が離せなかった。

カップを持つ手が震え始め、顔が真っ青になるユリ。



「うそ……なんで…どうして………」



「母さんも父さんの住所が知りたかったのなら僕に聞けば良かったのに」



タクマの言葉にユリは耳を疑った。

動揺しているユリを気にする事もなく涼しげな顔でタクマもコーヒーを口にしていた。



「タクマ……何故貴方が………えっ?」




タクマを問い詰め様としたが出来なかった。

ユリはコーヒーカップを落した。

驚いて落としたのではない。

何故か体に力が入らないのだ。

そのまま崩れ落ちる様に椅子から落ち床に倒れたユリ。



「良かった。資料だけで作ったから効果が出なかったら、どうしようかと思ったんだよ」



ユリが倒れても慌てる事なくタクマは平然とコーヒーを飲んでいた。

寧ろ安心した表情だ。



「あのね。母さん。僕の父親がユウマの父親だって事………知っていたよ」



驚愕に目を見開いたユリに対してタクマはカップにコーヒーを注ぎながら話を続けた。



「母さんは僕に悟られない様にしていたみたいだけど、バレバレだったよ。まぁ、僕は父親が誰だろうと、たいした問題じゃなかったけど」



タクマは一口、コーヒーを飲み椅子から立ちあがりベランダのドアを開けた。



「でも母さんが面白い位、執着しているみたいだから僕も協力してあげたんだ。面白かったよぉ……だって母さんの表情がコロコロ変わって……フフフ」



心底、タクマは楽しそうに話を続けた。

ユリはタクマに対して底知れぬ恐怖を徐々に感じ始めた。



「昨日、母さんが大暴れした時に言ったよね?」


「……?」


「あいつら全員死ねば良いのに……って?」



床に倒れているユリをタクマは抱き締め、耳元に囁いた。



「だからね……僕が母さんの願いを叶えてあげたよ」


ユリは全身の血の気が引いた。

そんな事はお構い無しにユリの体を軽く持ち上げ、タクマはベランダに向かって歩き出した。

その間もタクマは話を止めなかった。



「本当はさぁ……あの三人だけ殺そうと思ったけどユウマのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに見られちゃったから……まぁ後々面倒だし。家族皆とあの世に逝けて良かったかもね」



ベランダに着くとユリの手を優しく手すりに置かせたタクマ。

そのまま後ろからユリを抱き締めた。



「でも大丈夫だよ。僕の犯行は絶対にバレない自信があるんだ」



ユリはタクマの次の言葉を聞きたくなかった。

それは自分が想像出来る最悪の事態だと解っていたからだ。

しかしユリの予想通りだった。



「だって犯人は母さんだから。」



タクマはユリを抱き締める力を徐々に緩め始めた。



「しっかりと現場に母さんの指紋とか色々残してあるから大丈夫」



ユリの手をタクマは手すりから、ゆっくりと離し始めた。



「あぁ……僕は大丈夫だよ。加害者の息子になっても対応出来るから心配しないでね」


「…あ…あぁ……」


大声で助けを求めたかったが上手く声が出ない。



「(…止めて…止めて…止めてぇ………!)」



「母さんも嬉しいだろ?やっと自分の復讐が終わったから。あとは最後の仕上げかな……母さんも手伝ってね」



そう言い終わるとユリの体をベランダから躊躇なく放り出したタクマ。


「ひっ…!」


小さな悲鳴をあげたユリ。

自分は死ぬのだと。

しかしタクマは直ぐにユリの腕を片手で掴んだ。



「誰か……誰かぁ!助けて!!母さんが……母さんがぁ!!」


さっきの涼しげな顔とは裏腹、涙を流し震える声でタクマは周囲に助けを求め始めたのだ。



「(…何がしたいの?……タクマ?)」


ユリはこの状況が理解出来なかった。

何故タクマはこんな事をするのだろうか?



「(…私をベランダから突き落として……殺すんじゃないの……?)」



ユリは混乱した。

落とす前と今ではタクマの態度が違い過ぎる。



「母さん!しっかり手を握って!母さん!生きて……生きて一緒に罪を償おう!」



「(罪を償う?……まさか…!)」



ユリは確信した。

やはりタクマは自分を殺すのだと。

徐々にタクマがユリの腕を掴む力を弱めてきた。



そしてタクマがユリの腕から滑る様に手を離した。



「母さん!!」



涙を流しながらタクマは叫んだ。


「(…なんで?……どうして、そんなに……?)」



ユリはタクマの顔から目が離せなかった。

涙は流しているものの口元は笑っていたのだ。

ユリはタクマを育ててから初めて見たのだ。

あんなに嬉しそうに笑うタクマの姿を。


そして地面に叩き付けられ、血を流しているユリの姿を眺めながらタクマは小さく呟いた。


「さよなら……母さん♪」


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