白雪姫の母⑥
タクマが高校に入学してからユリは苛立ちを隠せなかった。
苛立ちの原因はマサシの家族の状態が解らない事だ。
マサシの家族はユウマの中学卒業と同時に家族一同、妻の実家に引っ越してしまったからだった。
業を煮やしたユリはマサシの家族がどんな生活をしているのか気になり探偵を雇って調べることにした。
数週間後、探偵から報告書が届くとユリは直ぐに目を通した。
まず妻の実家に引っ越した理由はマサシが勤めていた会社が倒産した事だと解った。
会社の経営はユリと別れてから徐々に悪化していたらしい。
仕事に追われていたマサシが保育園、小学校、中学校が一緒でもユリの存在に気が付けるはずがない。
そして今は妻の実家が経営している無農薬野菜を手伝っている。
息子のユウマは野菜に興味を持ち、農業科の高校に通っているとの事だ。
同封しているマサシの写真を見てユリは唖然とした。
本妻とマサシが楽しそうに野菜の世話をしている写真…
本妻の両親とも仲良くお昼ご飯を食べている写真……
家族と一緒にスーパーで買い物をしている写真……
ユリが見たことがないマサシの穏やかな顔ばかりだった。
「(何故あんなに楽しそうなの?)」
「(何故あんなに幸せそうなの?)」
「(何故、私と一緒に過ごした時より穏やかな顔をしているの?)」
「(何故………?)」
ユリは解らなかった。
石の様に固まったまま写真を持っていると、タクマが帰ってきた。
「ただいま。母さん。今日は抜き打ちのテストがあって驚いたよ。まぁ全問正解だったけどね」
何も知らないタクマは優しくユリに話しかけたがユリの反応がない。
「母さん?……具合が悪いのかい?」
心配そうにユリにもう一度話しかけたタクマ。
「……何であいつら幸せなのよ……………」
「えっ?」
「何で!あいつらの方が幸せなのよ!冗談じゃないわよ!!」
報告書と写真を床に叩き付け、憎しみを込めて踏みつけた。
「母さん。落ち着いて。何が…」
「アンタは黙ってなさい!!」
タクマの手を払いのけ、ユリはタクマを睨み付けた。
「あいつらに復讐する為にアンタ産んだのに何でなのよ!」
ユリの言葉にタクマの体は固まった。
しかしユリは止まらない。
一度流れ出た感情はユリ自身も止められない。
「私はあいつらに復讐する為に今まで頑張ったのに!何でよ!」
ユリは怒鳴りながら、目につく物を壊し始めたがタクマはユリを止めることはしなかった。
もう壊す物がなくなると肩を震わせながらユリは小さな声で呟いた。
「もう……全員死ねば良いのに……………」
体をふらつかせながらユリは寝室に入り、そのまま大声で泣き始めた。
ユリが寝室に入ってからタクマは黙々とユリが壊した物を片付けた。
一通り片付け終わるとタクマはユリに気付かれない様に、そっと自宅を出た。