白雪姫の母③
ユリは生れた子供にタクマと名付けた。
タクマは他の子の様に駄々をこねたり、わがままを言わずユリに従順だった。
タクマは保育士、保護者からの評判も良かった。
「今日はタクマ君、ケンカしている子供達を見付けて、仲裁に入ってくれましたよー。とても思いやりのある子ですね」
1日どんな様子だったかを保育士に聞くのがユリの楽しみであった。
あれだけ自分の理想を詰め込んだ子供なのだ。
悪い評判が出るわけがない。
当然だと心の中で呟いた。
「ほんとう………タクマ君を見習って、ユウマ君もいい子になると良いんですけどね……」
保育士が小声で呟いたのをユリは聞き逃さなかったが、聞こえない振りをした。
「ママ。お待たせ。お家に帰ろぉー」
タクマが帽子を被り、リュックを背負ってユリの元に駆け寄った。
「タクマ。先生にさよならは?」
「先生。さよならぁ」
笑顔でタクマは手を振りながら保育園を後にした。
「タクマ。今日は何をして過ごしたの?」
保育園から自宅のマンションまで歩いて10分弱、ユリはタクマにも1日どの様に過ごしたのか必ず聞いていた。
「今日はママからもらった色々な文字が、いっぱいの本を読んだよぉ。あとケンカしていた子達を仲直りさせたよぉ」
色々な文字がいっぱいの本はユリがタクマにプレゼントした英語の本だ。
他には動物図鑑・植物図鑑ど、とにかく感性が伸びる本をタクマに読ませていた。
「そう……ユウマ君はどうしていた?」
「ユウマ君はね……ミカちゃんの髪を引っ張っていたから、ボクとめたよぉ」
上目遣いでユリを見たタクマ。
「偉いわね。タクマ」
優しくタクマの頭を撫でながら、ユリは静かに笑った。
やはり、あの女の子供は出来損ないだと………