白雪姫の母①
少しでも楽しんでもらえれば、とても嬉しいです。
よろしくお願いします。
「スズキさんー。診察室にお入りくださいー」
やっと名前を呼ばれたっとユリはため息をついた。
予約が取れないということで朝イチに来たのにも関わらず、もう11時過ぎている。
「全く…急ぎの仕事が入ってなくて良かったわ……」
っと呟きながら診察室の扉を開ける。
医者を見た途端うんざりした。
白衣は着ているがヨレヨレのスーツ。
髪は理科の実験で失敗したかの様にボサボサの髪型に無精髭。
清潔な病院とは裏腹に医者の不潔さが際立っていた。
「どうぞ、おかけ下さいー」
医者は気にする様子もなく、髪の毛をボリボリかきながら椅子に座るように促した。
「よろしくお願いします」
始めて来る場所と言うこともあったが、ユリは目の前にいる医者に警戒した。
しかし警戒しているユリに関係なく医者はにっこりっと微笑みかけた。
「ご懐妊おめでとうございます。えーっとBDをご希望だとか?」
「えぇ。BDしないで子供を育てるのは嫌ですから」
BDっというのは「babydesign」を略した言葉だ。
今は自分の理想の子供をデザイン出来る時代になった。
「まぁ。BDと言っても、お母さん、お父さんの良いところ。悪いところを5対5の割合ですけどね」
「全部、自分の理想を入れるのはダメなのですか?」
「あー……全部理想を入れても問題はありません。ただ、一番良い割合が5:5か6:4なんですよねぇ……」
「では、自分の理想を全部入れた子供でお願いします。お金はいくら掛かっても構いませんので」
ユリは迷う事なく返事をした。
「お母さんの理想を全部……っと。何か理由があるのですか?」
カルテに「理想を全部」っと書き込みながら医者はユリに尋ねる。
「先生に伝える必要があるのですか?」
少し怒気を含ませながら、ユリは答えた。
「あ、気分を害されたのなら、すいません。ただ今日は午前中とは言え土曜日ですからね~。大体は、お父さんとお母さんっと二人揃ってが多いもんでー」
「大体って事は一人で来る方もいるでしょう?偏見よ」
「あははぁ……本当に申し訳ない」
ヘラヘラとした謝罪にユリは不愉快だったが、調べたところBDに関してはスペシャリストらしい。
何も知らなかったら、ユリは絶対に関わりたくないタイプだった。
「じゃあ、まずはスズキさんの理想の子供のイメージをノートに書いてきてください。今日はこれで終わりです」
そう言いながら医者はユリにノートを渡した。
「これで終わりなのですか?」
待ち時間より診察する時間の方が短すぎてユリは驚いた。
「そうですよ。理想と言っても色々とありますからねぇ……あっ。赤ちゃん見ていかれます?」
「いいえ……大丈夫です。ありがとうございました」
苛立ちを隠さないまま、ユリは診察室を後にした。
「あー……赤ちゃんは見ないのか………」
っと医者は再び髪をかき始めた。