出会い
不意に目が覚めると、自分がさっきまでどんな行動していたのか分からなくなる。
天井を見つめ、ピアノの音を聞きながらもう一度目を閉じる。「きらきら星 変奏曲」幼い頃に音楽が楽しいと感じた、自分の原点。そのころから母親から「ピアノ習ってみる?」と聞かれ、「次は、フルートね」「今度は、トランペットもいいんじゃない?」と言われるがままに様々な楽器を演奏していたが、いつの間にかバイオリンだけ弾いていたのはなぜだろか? 今、考えると、なんでバイオリンを弾いていたんだろか? 自問自答を繰り返していた。
「鵜沢君。そろそろ起きてー」
「最後まで演奏してくださいよ。先生……」
「え? 私の演奏聞いてたの? あらやだ、寝てると思ったのに」
なにがいやなのかさっぱり分からないが聞いてましたよ。その演奏のおかげで勉強する気が無くなってしまったけどね。
「じゃあ自分、帰りますで、さようなら」
「帰るって、ちょっと待ってよ、鵜沢くん。私の隣に大和撫子な美少女が立っているのに? 本当に男の子?」
「気がついてますよ? あと男です。学生証見ますか?」
先生は、あきれた感じで、立ち上がり、ピアノを閉じた。
「この子は、兵藤響さんちなみに彼氏はいないわよ?」
「先生辞めて下さい。彼氏とかいいんで。鵜沢君でいいのかしら? さっきはごめんなさい」
綺麗な黒髪で上から下までスタイルが整っている、女の子だ。
「鵜沢でいいです。怪我はないですか?」
「怪我なんてありませんよ。鵜沢君がクッションになってくれましたから」
「怪我しなくて安心しました。先生、兵藤さん、それでは帰ります」
「え? 会話それだけ? 広げなさいよ、会話! 「何で音楽室居るんですか?」とかあるでしょ?」
「聞く必要ないので……」
帰って寝たい、教室のドアに手をかけた瞬間。ピアノの音が響く。
「きらきら星 聞いていたんでしょ? あの鵜沢君からアドバイスほしいなー先生は」
「頑張って練習してください。さようなら」
「待ってよ。鵜沢君、冷たい男の子は、嫌われるよ?」
少しアドバイスすれば引き下がるのか、上達が自分で分かるまで付き合うのか分からないが、何を血迷ったか口が勝手に動く。
「ちょっとピアノから退いてください」
先生は、黙って席を譲る。
椅子を調節して、指のマッサージをする。
「取りあえず弾いてみますので聞いていてください」
目を閉じて、深呼吸、目を開けて鍵盤を見つめて、もう一度目を閉じる。曲が始まれば、分かるかもしれない、あのときの気持ちが。指が鍵盤に触れる。
初めてピアノに触れた時の気持ち。
音楽が楽しいと思った幼い時の気持ち。
この気持ちを音に変えて、星にして夜空に写す。
「こんな感じですね。特別難しい曲ではないので、取りあえず楽譜どうりに弾く。これが大事です。」
お喋りな先生が黙っている。もう少しピアノ弾きたい気持ちを押さえ、椅子から立ち上がる。
「……星が見えた」
「なんか言いました? 兵藤さん」
「……星空が見えた」
「それは、良かったです。聞いてくれてありがと。先生、兵藤さん、自分帰りますで」
やっと反応した先生は、引き留めないでいてくれた。ドアに向かって歩きだした時、制服の袖を捕まれ、振り返る。
「ピアノが専門ですか?」
次は、兵藤さんか。
「専門じゃないですよ。昔、ちょと弾いたことがあるだけです」
「ちょっとだけ? 嘘くさい」
目を細めて、見つめられる。
「嘘ついてどうするんですか。本当ですよ? 3歳ぐらいから10歳ぐらいだったよな気がします」
「7年ぐらいでそんなに上手いの!?先生、自信なくすは!!」
教室に響きわたる。
「先生は、ちょっと黙っていて、私が鵜沢君と話してます」
「分かりました……」
兵藤さん、先生の事、黙らしちゃった。
「で、鵜沢くん?」
「取りあえず、袖いいですか?」
「あ、ごめんなさい……」
向かい合って顔を見ると、手で顔をかくしながら聞こえるか聞こえないかわかない声で俺に告げる。
「……明日もここに来てください」