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野茨の血族  作者: 髙津 央
第四章.家族

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91.血族

 〈(いまし)はここ百年余りで一番の逸材であった。お陰で大いに楽をさせてもらったぞ〉

 政晶(まさあき)の手の中で、建国王の剣が笑っている。


 数歩後ろで、凍てつく炎と鍵の番人、双羽(ふたば)隊長が(ひざまず)いていた。

 二人の会話は、他の誰にも聞こえない。

 王家の武器庫は静かだった。


 〈他の子らは、ドブに気合負けしてな。我が無理に体を動かし、祭壇の広場の外へ連れ出してやらねばならなかった。そうして何度もやり直し、一日では済まぬ者が大半だ〉


 他人の闇に触れ、自分の闇と向き合い、戦う。

 建国王は、失敗しても決して叱らず、急かさず、何度でも挑戦させた。

 出来の悪い子孫に苦笑しつつも、温かく見守ってきたのだ。


 政晶は昨日の晩餐会で、近くの席の親戚たちが、謀反の罪で大臣が二人捕えられた、と小声で話すのを耳にした。

 連絡役と実行犯から引き出した情報による捕縛らしい。


 あの近衛騎士のように、強い思いを具現化させていた訳ではない。

 国を(うれ)えることと、政晶たち巴家(ともえけ)の者を憎むことを混同していたのか。

 それとも、自らの不安を王家の血統を維持することで(まぎ)らわそうとしていたのか。

 理由は定かでなかった。


 彼らの処遇は、まだ決まっていない。

 間もなくこの国を去るタダの子供の政晶は、その話に深入り出来なかった。


 片付けが済んだとはいえ、流石(さすが)にその夜は、襲撃現場である黒山羊の王子の私室に泊まれとは、言われなかった。

 叔父と共に、別室に通された。


 叔父も疲れていたのか、政晶より先に寝息を立て始めた。

 政晶は、叔父のぬくもりと枕元の使い魔の気配に安心し、夢も見ずに眠った。

 晩餐会の後も建国王の剣は政晶の(そば)にあり、今朝、王家の武器庫に戻される事になった。


 〈マサアキ、これでお別れだ。二度と(まみ)えることはないが、我は(いまし)を忘れぬ。我が我である限り憶え、遠くからではあるが、見守っておるぞ〉


 ……僕も王様のこと、忘れへん……って言うか、この(あざ)がある限り、忘れられへんわ。


 〈身体を(いと)えよ。達者でな〉


 最後に(つか)を強く握る。

 柄頭(つかがしら)の涙が、名残を惜しむように若葉色に輝いた。

 建国王と共に歩んだ短い旅の思い出が、胸の中に浮かんでは消える。

 政晶は声にならない声で「有難う」と呟き、建国王の剣を棚に安置した。

 扉を閉め、振り返る。


 三人は立ち上がり、恭しく礼を述べた。

 双羽隊長が、導師たちの湖北語を訳す。

 「遠路遥々御足労戴き、有難うございました。また、見事に舞い手の大役を果たされましたお陰様を持ちまして、この国も今後暫くは安全が保たれます。全ての民に代わりまして、厚く御礼申し上げます」


 「あなた様は、誰に何と言われようと、このムルティフローラ王家……野茨(のいばら)の血族であらせられます。誇りをお持ち下さい」

 鍵の番人に(かしこ)まった態度で言われ、政晶は思い出した。


 ……そない言うたら、僕……血液型、母さんと一緒やったわ……



 王家の野茨が描かれた馬車を、双羽隊長率いる赤い盾小隊と〈雪〉達の隊が護衛する。

 民の歓呼の声に送られ、政晶たちを乗せた馬車は、王都を後にした。


 護衛の騎士が馬を降り、政晶たちを馬車から降ろす。

 政晶、叔父、クロ、双羽隊長の四人が、城門前の石造りの小屋に入った。

 扉の前で騎士たちが、名残を惜しんで別れの言葉を述べる。


 政晶には、湖北語がわからない。それでも、彼らの気持ちに胸が詰まった。

 たどたどしい湖北語で何とか「みんな、ありがとう」とだけ返す。


 黒山羊の殿下が呪文を唱える。〈雪丸〉が手を振った。その目にうっすらと光るものが見えたのは、気のせいか、それとも……

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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