表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第四章.家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/93

89.雑種☆

 クロエが、敷布団の端を握って身構えている。

 寝台に剣が突き立っていた。その(つか)から手を離し、近衛騎士が呪文を唱え始めた。

 憎悪に満ちた目が、政晶(まさあき)を睨みつけている。


 〈トモエマサアキ、体を貸せ!〉

 建国王の声が脳裡(のうり)に響く。


 剣が政晶(まさあき)の意思とは無関係に鞘走(さやばし)り、近衛騎士に向けられた。

 騎士の術が完成する。術は建国王の力に阻まれ、政晶まで届かずに効力を失った。


 騎士は、寝台に刺さった剣を抜いた。

 「王家の野茨(のいばら)に雑種はいらん!」

 「曲者(くせもの)だ! 出会え!」

 政晶の口が、湖北語で援護を呼んだ。腹に響く重い声。政晶の声ではない。


 近衛騎士が寝台を乗り越えてきた。

 クロエが布団を投げつける。扉が開き、廊下の騎士たちが駆け込む。

 近衛騎士が左手で布団を()()け、斬りかかった。


 政晶は声を出すことも出来ない。

 建国王が騎士の懐に飛び込む。剣を一閃し、右腕を斬り飛ばした。剣を握った腕が床に転がる。


 入ってきた騎士は事態を把握できず、狼狽した。

 「捕えよ! 舞い手を狙う暗殺者だ!」

 二人は建国王の命令に従い、同僚を捕縛した。

 術で声を奪われた近衛騎士の口が、尚も何事か呪詛の言葉の形に動いている。


 政晶は、生身の人間の肉と骨を断った感触に(おび)えた。近衛騎士の眼に腕を切断された痛みはなく、政晶への憎悪を(みなぎ)らせ、異様に輝いている。


 建国王がその眼を睨み返し、一喝する。

 「この者は、我の裔冑(えいちゅう)だ。害するとは何事ぞ」

 捕縛された近衛騎士の体から、黒い(いばら)(つる)が噴出した。鋭い(とげ)が密生するだけで、花も葉もない。


 柄頭(つかがしら)で建国王の【魔道士の涙】が、若葉色の強い光を放つ。

 光に触れた黒い茨が萎縮する。


 「ご無事ですか?!」

 双羽(ふたば)隊長が駆け込んできた。


 一目で状況を把握し、腰から剣の(つか)を外す。刃のない(つば)を胸に押し当て、引き抜く。

 隊長の体から、白く輝く光の刀身が現れた。


 建国王が、近衛騎士を睨みつけたまま寝台を回り込む。

 建国王の剣を持つ政晶が離れた分、黒い茨の蔓が伸びる。

 双羽隊長が、政晶を背にして立った。


 建国王が呪文を唱え、左手で隊長の肩に触れた。

 三界の眼の視界を与えられた隊長が、息を呑む。

 「そんなにも、憎んでいるのですか……」

 その言葉に、騎士たちが怯えた目で同僚を見る。憎悪の茨に浸食され、捕縛の術が振り(ほど)かれた。


 近衛騎士が、右腕から血を滴らせながら詰め寄る。

 「小隊長! 何故、退魔の魂である貴女まで、雑種の存在を許すのですかッ?」

 剣の形をした退魔の魂を構え、双羽隊長は感情を抑えた声で説得を始めた。


 「口を慎みなさい。陛下は深いお考えの(もと)、国を開かれたのです。近年、世界の情勢が大きく変わり、国を閉ざしていたのでは、封印を……」

 「王家の血が(けが)れれば、封印が(おびや)かされます!」

 近衛騎士は、血を吐くような声で遮った。


 王家を慕う心が茨の形となり、政晶の足許に這い寄る。


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ