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野茨の血族  作者: 髙津 央
第四章.家族

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85.清め

 ()ぎ祓え、祓い清めよ、破魔(はま)(つるぎ)()箭霊(さち)呼び、弓弦(ゆづる)鳴らせ。

 視界の外なる焔光陽炎(えんこうようえん)纏い、(さと)し剣、()やらい、(けが)れ討ち、(うち)なる(がい)断て、慧し剣。

 魔の目貫け、慧し剣、儺やらい、魔滅せ。

 日々に降り積み心に(よど)む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。

 薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。

 視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、外なる碍断て、慧し剣。

 魔の目貫け、慧し剣、儺やらい、魔滅せ。

 夜々(よよ)に降り積み巷に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。


 政晶(まさあき)を遠巻きにするドブ水が、沸々と泡を弾けさせ、何事か呟く。その言葉は政晶に届かず、虚しく夏空に吸い込まれてゆく。


 薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。

 視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、裡なる碍断て、慧し剣。

 日々に降り積み心に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。

 視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、外なる碍断て、慧し剣。

 夜々に降り積み巷に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。


 ドブ水が退き、政晶の足許の床が露わになる。

 広場に描かれた魔法陣の術が発動する。若者たちが残して行った穢れ……負の感情が中立の魔力に変換され、政晶に注がれる。

 左腋の紋章から熱い何かが湧きあがり、全身を駆け巡る。

 政晶は剣を振るいながら、建国王と声を合わせて呪文を唱えた。


 「()ぎ祓え、祓い清めよ、破魔(はま)(つるぎ)()箭霊(さち)呼び、弓弦(ゆづる)鳴らせ。

 射交矢(いくさ)祝的(しゅうてき)し、祓えども心許すな。

 三界の魔(いざな)う深淵の螺旋(らせん)、我欲の沼を出で祓い清めよ。

 射交矢、祝的し、祓えども心許すな、()箭霊(さち)呼び、(つる)打ち残心せよ。

 射交矢、祝的し、祓えども心許すな、日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ」


 この世のモノである政晶の生気に満ちた声が、魔力を得て穢れを退ける。

 魔法陣の第二の術が励起(れいき)する。

 この世ならぬ瘴気(しょうき)が、烈日(れつじつ)の矢と建国王の剣に切り裂かれる。

 政晶が詠じる呪文の力の顕現(けんげん)に触れ、三界の魔物が発した瘴気(しょうき)が霧消する。


 「薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。

 日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ。

 薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。

 日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ」


 足許から、光が渦を巻いて起ち上がる。

 三界の魔物から流れ出た瘴気が、光の奔流に呑まれた。

 変換された魔力が、政晶の体に注がれる。魔力は政晶から剣に流れ、建国王の涙に溜まる。

 建国王は政晶に動作を指示し、力の流れを制御する。


 瘴気(しょうき)が光の奔流に分断され、祭壇の広場に散らばり、染みのように漂っていた。

 何処にも行けない閉じた空間で、宙を彷徨っている。

 力を失い、行き場を失い、逃げ惑う。

 光は熱を持たない炎のように揺らめく。

 政晶と建国王が示す方向に流れ、瘴気の()みを舐め尽していった。


 広場の瘴気が全て消え去った事を見届け、政晶は剣を天に掲げた。

 足許の魔法陣は沈黙し、術は間もなく終わる。

 光が竜巻となって天に突き刺さり、夏空に溶けるように消えていった。


 呪歌が終わり、余韻が(こだま)する。政晶はその余韻を魔法陣の中央で聴いていた。

 体に残っていた魔力が建国王の涙に移る。

 激しい疲労と脱力感を覚え、剣を持つ手がだらりと下がった。


 今更のように、肩で息をしていることに気付き、目を閉じてゆっくりと呼吸を整える。


 〈よくやった。浄化は完了した。有難う〉

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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