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野茨の血族  作者: 髙津 央
第四章.家族

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83.護符

 目を遣ると、そこだけドブ水が避けている。友田と赤穂(あこう)合作のお守り袋だ。


 ……そうや、赤穂君……転校してもたけど、友田君も、折角友達になったんや。


 政晶は、帰国後、ムルティフローラの話をすると、メールすると約束したことを思い出した。

 心がこの世に繋ぎ留められる。


 誰もがタダの子供の政晶を必要としていない。

 母は、政晶をこの世に置き去りにして逝った。

 誰もがお前の望みに応じず、心を満たさない。

 父は、政晶を家に置き去りにして仕事に行く。


 ……赤穂君も友田君も、僕に魔力がのうても笑ろたり、バカにしたりせんかった。


 誰もがお前の求めに応じず、助けには来ない。

 国は、政晶を利用して捨て去ろうとしている。

 誰もがお前を認めず顧みず、気にも掛けない。


 ……ムルティフローラ王家の(しるし)があるのに魔力がない、能無しって笑わんかった。


 この世の全てが拒むなら、自らも拒めばよい。

 誰も望まない呪われた子供が生きて何とする。

 無様に生き恥を晒すなら、全ての滅びを望め。


 ……僕が死んだら、赤穂君たちが悲しむ。


 ドブ水が、政晶(まさあき)の心に染み込んでくる。

 この世ならぬ穢れが政晶を(あざわら)う。嘲笑の(さざなみ)が、祭壇の広場いっぱいに満ちている。


 ……こいつらが三界の魔物になって暴れたら、赤穂君たちがやられてまう。あかん……それは絶対あかん!


 「魔の目貫け、(さと)し剣、()やらい、魔滅せ。日々に降り積み心に(よど)む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ」


 この世の全てが拒むなら、自らも拒めばよい。

 誰も望まない呪われた子供が生きて何とする。

 無様に生き恥を晒すなら、全ての滅びを望め。


 この世ならぬ穢れが政晶を(あざわら)う。それでも政晶は、無心に呪文を唱える。

 力を持たずとも、この呪文だけが政晶と建国王を繋ぐ(しるべ)だと信じ、ひたすら詠じる。


 「視界の外なる焔光陽炎(えんこうようえん)纏い、(さと)し剣、()やらい、穢れ討ち、外なる(がい)断て、(さと)し剣。魔の目貫け、慧し剣、儺やらい、魔滅せ」


 誰も望まないタダの子供を何故、産んだのか。

 誰もがタダの子供の政晶を必要としていない。


 ……そんなことない! 母さんは、自分が入院しとんのに僕のこと心配しとった!


 誰もがお前を認めず顧みず、気にも掛けない。


 ……僕は母さんを心配させたなかったから、何も言えんかった、言わんかっただけや!


 「射交矢(いくさ)祝的(しゅうてき)し、祓えども心許すな、三界の魔(いざな)う深淵の螺旋、我欲の沼を出で祓い清めよ」


 誰もがお前を認めず顧みず、気にも掛けない。


 ……そんなことない!


 誰もがお前の望みに応じず、心を満たさない。


 ……父さんは、仕事で大変やから、心配させたなかったんや! そやから、僕が、自分で言わんかっただけや!


 誰もがお前の求めに応じず、助けには来ない。


 ……言うたら、父さん、一カ月も仕事ほっぽり出して、僕と母さんの(そば)に、ずっとおったやんか!


 「薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔(はま)(つるぎ)、日の箭霊(さち)呼び、弓弦(ゆづる)鳴らせ」


 左腰のお守りを掴み、右手をドブ水に突っ込む。

 屈んで呪文を唱える政晶の口の中に、人々の心の穢れと瘴気(しょうき)のドブ水が、蠢き這い入る。味も臭いもない不定形の闇が、呪文に掃き出されては、這い入ろうと蠢く。


 誰もがお前の望みに応じず、心を満たさない。

 呪われた自らも、この世の全てを拒めばよい。


 ……そんなことない!


 誰もがお前の望みに応じず、心を満たさない。


 ……父さんも母さんも大変やったから、僕はえぇ子にしとかなあかんかっただけや!


 自らも、この世の全てを拒絶し、呪えばよい。


 ……親が大変な時に()(まま)言うたら、ホンマに()らん子になってまう(おも)て、何も言えんかった!


 誰もがお前の望みに応じず、心を満たさない。


 ……僕が! 自分で! 言わんかっただけや! 黙っとったら、親でもどなして欲しいか、わからんわ!


 「巡り()る因果の糸のその先に(いまし)めて(いまし)めに()まし魔を(いまし)めよ」


 その言葉を唱えた瞬間、政晶の意識に光が差した。


 ……そうや! こいつら、王様の剣がおらんかったら、視えへんねや!


 「破魔の剣、日輪(ひのわ)(かげ)らす雲を()ぎ、月を翳らす(もや)を祓え」


 呪文を唱えながら自分の体に意識を巡らせる。

 ドブ水に覆われ心に痛みは感じるが、鎧に守られた肉体は無事だ。

 この世ならぬ闇は、政晶の中に入り込めずにいた。


 「日の箭霊(さち)呼び、(つる)打ち残心(ざんしん)せよ」


 誰もがお前を認めず顧みず、気にも掛けない。


 ……さっきからやかましいわ! それしか言われへんのか!


 この世の全てが拒むなら、自らも拒めばよい。


 ……僕は言うたらあかんから、何も言わへんかっただけや!


 誰もがお前の望みに応じず、満たす事はない。


 ……黙っとったら、親でも気持ちなんか伝わる訳ないやろ!


 「()ぎ祓え、祓い清めよ、破魔(はま)の剣、()箭霊(さち)呼び、弓弦(ゆづる)鳴らせ」


 気魄(きはく)を込めて呪文を唱える。

 政晶と建国王の剣の間に穢れと瘴気(しょうき)のドブ水が蠢き、二人を隔てていた。お守りを握りしめ、意識を集中する。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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