表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第一章.帝都
8/93

08.自室

 「掃除と荷物運び、終わったよ」

 不意に言われ、政晶(まさあき)は思わず前を向いた。


 「お布団だけベッドに敷いたけど、後は自分で片付けてね」

 「え……? あ、はい?」

 政晶は戸口に目を遣った。

 誰も居ない。

 台所を見回したが、モニタらしき物は見当たらなかった。

 宗教(むねのり)は何も持っていない。ただ政晶の前に座っているだけだ。


 ……おっちゃん、何で自分がやったみたいに言うとるんや? 


 「清掃と荷運び、完了致しました」

 政晶(まさあき)が箸を止めて考え込んでいる所へ、金髪の女性と黒髪の女性が入ってきた。

 金髪の女性は、先程の大広間に居た人物。黒髪の女性は、古い外国映画から抜け出してきたようなメイドだった。


 「クロエ、立つの手伝って」

 「はい、ご主人様」

 「あ、政治(まさはる)、何時に帰るって言ってた?」

 「ご主人様、政治さんは、一時間程度で帰宅するそうです」


 ……ホンマに「ご主人様」言うメイドさん()るんや……この家、執事さんも居るし、漫画みたいな金持ちやな……でも、昼は、月見うどんなんや……


 「政晶君、もうおなかいっぱい? お部屋見に行く?」

 「えっ、あ……はい」

 結局、つゆが残ったままの丼を流し台に運ぶ。

 古風なメイドが、慣れた手つきで宗教が立ち上がる介助をした。


 「洗うのはクロエにしてもらうから、行っていいよ。双羽(ふたば)さん、案内してくれますか?」

 「……こちらです」

 フタバと呼ばれた金髪の女性に促され、政晶は台所を出た。


 口の字型の長い廊下をほぼ半周し、玄関の反対側にある階段を昇る。

 二階を半周し、玄関の真上辺りの部屋に通された。

 南向きの窓から差し込む春の陽が、木の床と白い壁を温めている。


 十二畳程の部屋にベッドと、商都(しょうと)から持ってきた学習机と、数個の段ボール箱だけがぽつんと置かれていた。

 宗教(むねのり)の言う通り、ベッドには商都で使っていた布団が敷いてある。


 「隣の二部屋が、あなたの父上のお部屋です。手前が寝室、角は仕事部屋です」

 金髪、青い瞳、白い肌。顔立ちも、どう見ても日之本帝国人ではない。


 出身地は不明だが、フタバの説明は、訛のない完璧な発音の日之本帝国語だ。

 政晶(まさあき)はいくつも疑問が湧いてきたが、気後れして口に出せなかった。


 ……そない言うたら、こないだ新聞の授業で、看護と介護の外国人労働者を増やす政策がどうのって、やったなぁ……あぁ言うのんで来た人なんやろなぁ……


 代わりに、自分で見当を付けて自分を納得させる。

 廊下の扉が開き、宗教(むねのり)と執事の黒江が入ってきた。

 玄関正面の扉から中庭に降り、外階段からバルコニーに上がって、近道したらしい。


 「着替えとかはクローゼットに仕舞ってね。家具の配置を変えたいなら、黒江に手伝わせるけど……?」

 「あ……い、いいです。このままでいいです」

 標準語で話すと堅く心に誓ったが、口が強張り、ぎこちない。


 クローゼットは父の寝室側の壁面。

 ベッドは窓辺、学習机はクローゼットとは反対側の壁際に配置されていた。


 ……広過ぎて落ち着かんのは、どないしようもないしな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ