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野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

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76.赤糸

 〈トモエマサアキ、詠唱を続けよ。()けつく烈夏の日輪(ひのわ)以て(あば)き……〉

 「()けつく烈夏の日輪(ひのわ)(もっ)(あば)き、四方(よも)に広がる霜の(つるぎ)以て(まが)つ罪断つ……」

 建国王が魔力を込めて名を呼んで強制し、政晶に術を完成させた。

 震える足を叱咤し、恋人たちに近付く。


 騎士たちが先んじて、蛇に巻かれた恋人たちを囲んだ。

 他の若者たちはじりじりと移動し、宿舎の前で身を寄せ合っている。

 主峰の心と鍵の番人は、険しい表情で見守っていた。


 「他の誰も見ないで! 私だけを見て! ……どこ見てんのよッ? 私を見なさい!」

 婚約者は、主峰の心や鍵の番人に(すが)るような目を向けていた。

 娘は婚約者の頬を両手で挟み、力ずくで自分に向ける。


 「……これ、引き離した方がいいんですかね?」

 「無茶言うな。犬も食わないって言うだろ」

 〈雪〉の呟きを〈斧〉が溜め息を吐きながら否定した。


 赤い大蛇が、婚約者の上半身を呑み込んでいる。

 三界の眼を持たない青年は、自分の身の上に何が起こっているか、気付いていない。身体には痛みを感じないようだ。

 政晶(まさあき)は、娘から隠れるように青年の背後に立ち、嫉妬の塊を削りに掛かった。


 彼を斬らないよう、慎重に刃を動かす。

 薄く()げた赤い塊が、祭壇に吸い寄せられ、ドブと混ざって視えなくなる。


 赤い蛇も痛みを感じないのか、政晶に(けず)られても動じない。ただ、娘と婚約者を(まと)めて縛り上げ、彼を呑み込んでいる。

 削られ、薄くなった部分を他の部分が補い、全体が徐々に細くなってゆく。


 再度、術の効果が切れ、剣が素通りする。

 蛇は凧糸の太さにまで細り、婚約者の首に幾重にも絡みついていた。


 娘は婚約者の胸に顔を埋め、泣きじゃくっている。

 「私には、あなたしか居ないの……あなたしか……見てないの。見えないの……」

 青年は婚約者を抱きしめ、鼓動に合わせて背中を軽く叩いていた。


 赤い糸は青年の首に食い込んでいる。

 この世のモノなら絞め殺されているところだが、青年はようやく落ち着いてきた婚約者にホッとしていた。

 「君がこんなヤキモチ焼きだったなんて、知らなかった……何か、色々と、ゴメン」

 娘は無言で(うなず)き、しゃくりあげる。


 ……あの……王様、もう一遍(いっぺん)さっきの魔法……


 〈これ以上となると、肉体を傷付けてしまう。それに、男も満更(まんざら)ではなさそうだぞ……捨て置け〉


 ……えっと……もしかしてこれが、運命の赤い糸……とか言う奴なん? 恐過(こわす)ぎやろ……


 政晶(まさあき)は、娘の体から伸び、青年の首を絞め上げている赤い糸に震えあがった。

 宿舎前の者達は、ある者はニヤニヤ笑い、またある者はうんざりした目で、そんな二人を眺めていた。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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