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野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

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75/93

75.蜷局

 他の若者の大半はオロオロと見守るばかり。ニヤけながら隣と小声で話す者もいる。

 騎士たちは舞い手を守ろうと、泣き叫ぶ娘と政晶(まさあき)の間に立ち、身構えている。


 「白々しい! 結婚してなきゃいいってもんじゃないの! これは私のカレなの!」

 「だから、落ち着けって、彼女は関係ないだろ」

 「関係ある! 関係あるようにしてんのは、あなたなの! 外国のオンナが珍しいからって、いちいち見ないで! 私だけ見てればいいのよ! 私だけ見なさい!」

 「えっ? ちょっ……お前、どうしたんだよ、急に……」

 青年は金切声で泣き叫ぶ婚約者に狼狽(ろうばい)し、肩から手を離した。


 蛇がゆっくりと、とぐろを()く。

 「娘よ、それは人間ではない。殿下の使い魔が化けたモノだ。だから浮気では……」

 鍵の番人の言葉に、娘は婚約者の胸倉を掴んで激しく揺さぶった。

 「可愛くて胸が大きけりゃ魔物でも何でもアリなのッ? サイテー!」

 「えぇっ? ちょっ……お前、何言ってんだよッ? そんなんじゃないって……!」


 ……えっ? えぇえぇえぇっ? 何これ恐ッ! 全然コトバ通じんやん。あー……あれか? マリッジブルーとか言う奴なん?


 〈赤だか青だか知らぬが、蛇が娘の体から離れておる。今ぞ好機。呆けておらんでさっさと斬れ。全く、男女の機微のわからぬちびっ子が余計なことを言うから……〉

 建国王の【魔道士の涙】が新緑の色に輝いた。


 娘は婚約者の胸倉を掴んで泣き叫んでいる。

 蛇は青年のドブとは違い、術の発動を意に介さない。

 嫉妬の塊は、娘の感情の爆発と同時に膨れ上がった。人を呑む太さに育った大蛇が、今度は戸惑う婚約者に向かう。


 政晶(まさあき)は騎士たちの守りを抜け、駆け寄った。

 武器としての剣の扱い方は習っていない。スイカ割りのように力任せに刃を叩きつける。

 赤い蛇は何の抵抗もなく断ち切られた。勢い余った切先が地を打つ。


 人々が呆気に取られ、政晶に注視する。

 周囲の者が息を殺して見守る中、娘は血を吐くような声で、婚約者が過去に何度も他の女性に関心を示したことを(なじ)り続けている。


 嫉妬の蛇は断ち切られて尚、動きを止めない。

 頭を失った胴は一滴の血も流さず、激しく身を(よじ)っている。この世ならぬ蛇の頭部が、婚約者に向かって地面を這いずる。


 政晶は恐怖に駆られ、(うごめ)く蛇の頭を闇雲に斬りつけた。何の手応えもなく、刃の触れた部分が分離する。

 蛇の断片は、吸い寄せられるように祭壇に流れ込んだ。


 散々斬りつけられた蛇の頭部が全て祭壇に消え、ようやく政晶は我に返った。呼吸を整えながら顔を上げ、娘を見る。

 残った胴の切断面が、見えない手で()ねられ、頭部を形作ろうとしていた。

 娘は相変わらず、涙と(はな)に塗れた顔を歪め、婚約者に甘えながら、詰り続けている。


 〈術の効力が切れた。もう一度呪文を唱えよ。天の(ことわり)、地の恵み……〉


 言われた通り、呪文を唱えながら、娘に近付く。

 術が完成する前に蛇の頭部が再生した。赤い蛇は身を(ひるがえ)し、婚約者に(おど)り掛かった。

 流れるような動きで若い恋人たちを締め上げる。


 政晶は息を呑み、足を止めた。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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