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野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

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74.鎌首

 我に返った政晶(まさあき)が、赤い蛇に絡み付かれた娘に近付く。

 政晶に気付いた娘が立ち上がる。数歩離れた所で立ち止まり、政晶は娘の顔を見上げた。

 互いに結婚の約束をした恋人も立ち上がり、二人の顔を見比べた。


 「お姉さんに赤い蛇が巻きついとう(まきついている)から、じっとしとって欲しいねん」

 政晶の言葉をクロエが湖北語に訳す。


 恋人が後退り、娘は首を横に振った。

 「何? ずっと一緒の私より、こんな変なカッコの女の言うこと、信じるの?」

 恋人が怯えた目で婚約者を見る。


 赤い蛇の娘は恋人に向き直り、更に(なじ)った。

 「何で私ばっかり責められるのッ? あなたが私を怒らせるのが悪いんじゃない!」

 「何、そんな怒ってんだよ。俺、何か悪いことした? 彼女だって舞い手様の言葉を通訳しただけだろ?」

 「チッ! またそうやってそいつ(かば)うし! 何が『彼女』よ!」

 「いや、別に庇ってないし。落ち着けよ」


 婚約者が、激昂する恋人を宥めようと、その方に両手を置いた。その身に赤い蛇を巻きつかせた娘は、低い声で早口に捲し立てる。

 「落ち着いてる。私は冷静。そいつがホントに舞い手様の言葉を訳してるかどうか、わかんないじゃない。全然知らない言葉なんだから、そいつが舞い手様の口借りて、自分の言いたいコト、言ってるかもしれないのに。何であっさり信じてんの?」


 当のクロエは、次の命令を与えられていない為、二人の遣り取りをぼんやり眺めている。

 政晶はどうしていいかわからず、(つか)に手を掛けたまま、動けない。


 赤い大蛇はクロエを睨み、火のような舌を忙しなく出し入れしている。そろりと(ほど)け、娘の体から這い出した。地を這う蛇は長く、尾はまだ娘の中にある。


 「大体、あなたがいつも私の気持ち、わかってくれないのがいけないのに、どうして私ばっかり……」

 「いや、わかってる、わかってるから、そんな泣くなよ。みっともない。成人の儀の最中に、みんなの迷惑だろ」

 「わかってない! 全然わかってない!」


 娘は大粒の涙を零しながら激しく頭を振った。

 赤い大蛇が身を縮め、次の瞬間、跳躍した。

 目標はクロエ。

 この世ならぬ嫉妬の蛇が、大きく口を開き襲い掛かる。


 政晶(まさあき)は恐怖に立ち(すく)んだ。頭の中が真っ白になる。

 クロエは、ひょいと横に動いて蛇の一撃を(かわ)した。その目は明らかに蛇の動きを捕えている。

 避けられた蛇は、悔しさに身を(よじ)りながらとぐろを巻き、鎌首をもたげた。その尾はまだ娘の中にある。


 「えっ? あれっ? クロエさん、その蛇、視えんの? 何で?」

 「はい。視えます。ご主人様が三界の眼を開いていらっしゃる間は、私にも視えます」

 「サイッテー! 何それ、惚気(のろけ)? 夫が居るのに私の彼に色目遣ってたの? サイテーの不倫女じゃない!」

 「いや、全然そんな話じゃないだろ。落ち着けよ」

 婚約者が娘の肩を掴んで揺さぶる。


 「夫ではありません。ご主人様です」

 侍女の形をした使い魔は、娘の剣幕にも全く動じない。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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