表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/93

73.祓う

 ……えっ? いや、この人、大丈夫やんな?


 〈案ずるな。心臓と肺は動いておる〉

 意識もあるのか、青年を覆い尽くしたヘドロが溢れ、地面に広がる。政晶(まさあき)は足下のヘドロを避けながら、青年に近付いた。

 建国王が呪文を唱える。


 〈我に続いて唱え、斬れ。

 天の(ことわり)、地の恵み、水の情けと火の怒り、我にその大いなる助力与えよ。

 蒼穹の(もと)(ただ)しき(ともしび)よ、如何なる辯疏(べんそ)をも却ける峻厳なる光明よ、咎人(とがびと)(ひそ)かな(たくら)(あば)け。

 何者にも染まぬ黒き衣纏い、()けつく烈夏の日輪(ひのわ)以て劾き、四方(よも)に広がる霜の(つるぎ)以て(まが)つ罪()つ。

 日々に降り積み心に(よど)む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。

 灼けつく烈夏の日輪以て劾き、四方に広がる霜の剣以て禍つ罪断つ。

 心の誠以て日輪の花咲かすべし〉


 先程、主峰の心が唱えた物と同じ、穢れを祓う呪文だ。

 政晶は、建国王に続いて湖北語で呪文を唱えた。剣の柄頭(つかがしら)で建国王の【魔道士の涙】が若葉色に輝き、術が発動する。

 ヘドロが萎縮し、宿主の体内に戻ろうと蠢く。


 若葉色の光に打たれた表面が剥がれ落ち、祭壇に吸い込まれて消える。

 政晶は、建国王が映像で示す通り、ヘドロを()ぐように剣を振るう。

 斬り落とされた穢れが、黒い(もや)となって祭壇に呑み込まれる。


 「四方(よも)に広がる霜の(つるぎ)(もっ)(まが)つ罪断つ。心の(まこと)以て日輪(ひのわ)の花咲かすべし」


 最後に、祭壇に向かって大きく()いだ。

 青年にしがみついていた塊が抜け、夏の日差しに()かれる。

 黒い靄が消え、政晶にも青年の姿が視えた。

 鍵の番人の術に縛られたまま、表情を憎しみのまま凍りつかせている。

 政晶は剣を鞘に納めた。


 〈よくやった。ひとまず、この者から離れよ〉


 建国王の【涙】から光が消える。

 政晶は(うなず)いて、騎士たちの傍に戻った。

 他の若者たちが、驚いた顔をこちらに向けている。鍵の番人が杖で地面を打ち、術を解いた。


 ひねた青年は、その場に崩れ落ちるように膝をついた。親戚が駆け寄る。

 (うつむ)いた青年の表情はわからないが、震えていることはわかった。


 親戚たちが(すが)るような目を向ける。鍵の番人が面倒臭そうに説明した。

 「建国王の剣で、その者に溜まった穢れを断ち切って下さったんだ。後は、本人の心掛け次第だ。今は部屋に下がって休ませてやるといい」


 親戚達は信じられないと言いたげに、ひねた青年を見た。

 黙って俯いている。

 親戚たちは、鍵の番人と政晶の目を見て何度も礼を述べ、青年に肩を貸して立たせた。

 青年はその手を振り払い、弾かれたように登山道を駆け下った。


 「おい! どこ行くんだ! 待て!」

 親戚二人が後を追う。その場に残された者たちは呆気(あっけ)にとられ、ただ見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ