表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/93

71.昇天

 ……あの兄ちゃんを信じて待つんが人情なんやろけど……運が悪うて待ったなしやったら、イヤやしなぁ……


 政晶は、ひねた青年と、鍵の番人と、主峰の心を順繰りに視た。

 「これ……別に要らんこと、(ちゃ)うやんな?」

 声に出しながら、(つか)に手を掛ける。建国王が、政晶にだけ認識できる声で同意を示す。


 主峰の心が「負傷者」の肩を叩き、「また会おう」と声を掛けながら若者たちの間を歩く。

 声を掛けられた者たちは、晴れやかな笑みを咲かせ、溶けるように淡い光となって、雲ひとつない夏空へ昇って逝く。


 黒い(もや)は祭壇へ。

 淡い光は大空へ。

 混じり合うことなく、あるべき場所へ消えてゆく。


 靄と光が飛び交う中、ヘドロを纏った青年と赤い大蛇を絡ませた娘は、何食わぬ顔で儀式が終わるのを待っていた。


 「あのー……鍵の番人さん、その人らにちょっと待ってって言うてもろていいですか?」

 クロエが訳すと、鍵の番人は首を傾げた。

 政晶(まさあき)は慎重に言葉を選んで説明する。


 「僕が言うより、偉い人に言うてもろた(もらった)方がえぇかなって……あの、穢れが……がっちりくっついて、離れへん(はなれない)人がおるんですけど……」

 鍵の番人は、若者たち一人一人に視線を向けた。

 騎士たちとクロエも若者たちを見る。


 「あの……ドブ被っとう(かぶっている)男の人と、赤い蛇が巻きついとう(まきついている)女の人なんですけど、王様が、今やったらまだ、王様の剣で何とかなる言うてはるんで、僕も何とかしたいなぁ(おも)て……」

 「赤い蛇……? もう具現化しちゃってるんだ」

 翻訳を聞いた〈雪丸〉が青褪(あおざ)めた。他の騎士たちにも緊張が走る。


 ……えっ……あの姐ちゃん、そんなヤバいん?


 〈瘴気(しょうき)に触れれば、即座に三界の魔物と化す。嫉妬とは恐ろしいものだな〉

 建国王が嘆息する。


 鍵の番人は、政晶の手を引くと、大股で若者たちの中に入り、小声で訊いた。

 「誰と誰?」

 政晶は、赤い蛇の娘の傍らに寄り、(てのひら)で小さく示した。鍵の番人が(うなず)く。次に、ひねた青年に近付く。

 儀式はほぼ終わり、「負傷者」は一人残らず空に消えていた。


 「何だ、お前? 何の用だよ」

 ひねた青年が、汚い物を見る目で政晶を見降ろす。政晶はその見覚えのある威圧感に、一歩退いた。


 ……ヤンキーて、どこにでもおんねんなぁ……


 「無礼者。このお方は王家の舞い手にあらせられる。この中に二人、成人の儀で祓えぬ程の穢れを抱えた者がいるとの仰せだ」

 いつの間にか二人の隣に立っていた〈灯〉が、ひねた青年を遥かに上回る高圧的な態度で言い、睨みつけた。


 他の者たちが一斉に(ひざまず)く。


 青年は突っ立ったまま、しまった、と言う顔をしたが、すぐに気を取り直し、せせら笑った。

 「へぇ~え、王家の舞い手様ねぇ? さっきから全然、湖北語(こほくご)喋ってないみたいッスけど? ホントに王家の野茨の血族なんッスか? 騎士様、こいつに騙されてません?」

 ズボンのポケットに両手を突っ込み、政晶を頭のてっぺんから爪先まで舐めるように見る。


 「城で私が直々に確認した」

 鍵の番人が、杖の石突きで足元を軽く打った。


 「そもそも、野茨(のいばら)の血族でなければ、建国王の剣に触れること(あた)わぬ。そのようなつまらぬことばかり考えておるから、穢れが溜まるのだ」

 「何だよ。チビの分際で偉そうに。何様のつもりだ?」

 ひねた青年は鍵の番人を見下ろし、尚も虚勢を張る。


 親戚二人がその膝裏を蹴り、頭を抑え込んで、力ずくで(ひざまず)かせた。

 「お前ッ! 見てわかれよバカ! つっ……杖、杖! 導師様だよ!」

 「すんません! このバカには後でキツく言って聞かせますんで! ここは何とぞ……」


 「何すんだコラ! 放せ!」

 ひねた青年は二人を力任せに振り(ほど)き、傲然(ごうぜん)と立ち上がった。他の者たちは隣と顔を見合わせ、こちらを(うかが)っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ